#小説

【湊かなえ】使い捨ての出版界

「告白」で本屋大賞を獲得し、「少女」でその文体や構成を確立した感のある湊かなえ。彼女が作家として成功するかどうかを決めるのは、次の3作目だと思っていました。同じような作品を出してしまえば、それは作家としての限界を露呈したことになるのではない…

【村上春樹】1Q84は原点回帰

爆発的な売れ行きを示しているらしい、村上春樹の新作「1Q84(イチ・キュー・ハチ・ヨン)」。その不思議なタイトルにも惹かれるが、内容もハルキワールドが満載だ。「海辺のカフカ」や「アフターダーク」では現実味が濃くなっていたものの、本作では彼本来…

【湊かなえ】「少女」の暴走

以前、湊かなえの「告白」について記事を書きましたが、第2弾の「少女」が早川書房から発売になっています。この作品も、前作同様に伏線が張り巡らされており、最後は糸を手繰るようにすべてがつながってゆく展開です。ドライな文体に秘められた悪意は、相変…

【宮部みゆき】英雄の書

宮部みゆきの作品は、現代ものの他に時代ものやファンタジー系の小説がありますが、「英雄の書」はファンタジーです。宮部のファンタジーは、自分が読みたいものを自分で書いているようでもあり、ファンタジーらしい設定をすることに自分で酔っているような…

【鈴木光司】「エッジ」に騙されるな

「リング」「らせん」の著者でもある鈴木光司による、お得意の科学を散りばめた新作小説「エッジ」を一気に読了しました。量子力学や数学がマジックのようにストーリーを彩り、最後まで興味を惹きつけられたままおもしろく読み進めることができます。 でも、…

【よしもとばなな】「イルカ」の繊細さ

よしもとばななの「イルカ」が文春文庫から出たので、読んでみました。この作品は小説という位置づけではあるけれど、テーマは世間並みではない恋愛や出産を経験した著者でなければ書けなかったものでしょう。その意味では、エッセイに近いような、かなりノ…

【よしもとばなな】「彼女について」

よしもとばななの最新作「彼女について」は、とても不思議な小説です。彼女らしい淡々とした、それでいて会話の間や漂う雰囲気が秀逸な文体を感じながら読み進めてゆくと、突然静かなどんでん返しをくらってしまうのです。ばななの小説を読む際には、奇想天…

【湊かなえ】「告白」に込められた悪意

最近、新聞やテレビなどでも話題のこの作品。読み始めて最初に感じたのは、文体の「軽さ」でした。ある教師が生徒に語りかける場面から始まるので口語体は当然ですが、それがとても自然なだけに、かえって文学的な意味では疑問を持って読み進めることになり…

【海堂尊】「医学のたまご」の意図

「チーム・バチスタの栄光」などで売れまくっている海堂尊。先日レビューを書いた「ジーン・ワルツ」に続いて「医学のたまご」を読んでみました。登場人物がつながっており、また「ジーン~」の中で「医学のたまご」という単語が小ネタのように使われている…

【小説】瀬名秀明vs海堂尊

科学をベースにした小説を、立て続けに読みました。まずは「パラサイト・イヴ」「Brain Valley」で読者に戦慄を覚えさせた瀬名秀明の「Every Breath」。そして、「チーム・バチスタの栄光」以降快進撃を続けている海堂尊の「ジーン・ワルツ」です。 瀬名秀明…

【ウルトラ・ダラー】元記者のウンチク

元NHK記者の手嶋龍一が書いた「ウルトラ・ダラー」は、北朝鮮の手によるドル紙幣偽造疑惑に題材を求めたサスペンスです。単行本が出たときから興味を持っていましたが、文庫になったのを機に読んでみることにしました。舞台は日本が中心ですが、香港・マ…

【宮部みゆき】読みやすい「楽園」

宮部みゆきの小説は、複数の筋が最後に一本に収斂していくような技巧が多様されるので、本の序盤にうちは全体像がつかみにくかったりします。その点、今回の「楽園」は途中に「断章」が挟み込まれているとはいうものの、話がうまくまとめられており、非常に…

【ハリーポッター】最終巻読了

基本的に「ネタバレなし」です。ハリーポッター・シリーズの最終第7巻「Harry Pottar and Deathly Hollows(英語版/邦題未定)」を苦労の末に読了しました。主要な登場人物のうち2人が死ぬという情報が著者の口から語られたとのことで、そのつもりで読んで…

【ハリーポッター】最終巻発売

ハリーポッター・シリーズの最終第7巻「Harry Potter and the Deathly Hollows(邦題未定)」の原書が、土曜日に世界一斉発売されました。これまでは一応全部英語で読んでいるので、今回も敢えて原書にチャレンジしています。各国で発売日はかなりの盛り上が…

【小説】わがままな遺伝子3

ホームページ「T's Works」の方に、久しぶりに小説をアップしました。昨年の7月から更新が途絶えてしまっていたのですが、最近また少し創作意欲が高まってきたので、以前の連作掌編シリーズ「わがままな遺伝子」の3作目として「ニルヴァーナ」を書きました。…

【小説】十二番目の天使

僕は知らなかったのですが、この本は5年前にかなり売れていたらしいです。実は僕の会社のアメリカ本社でこの本を題材にリーダーシップ教育をする構想があるらしく、そのために日本での出版状況を調べたことから興味を持ちました。著者のオグ・マンディーノは…

【アンフェアな月】リアリティの説得力

最近読んだミステリーもの、島田荘司も宮部みゆきも、僕にはリアリティを感じられなかった。話の筋はそれなりにおもしろいのだが、現実に起きそうな気がしない。そんなフラストレーションを、秦建日子の新刊「刑事雪平夏見・アンフェアな月」はあっさりと消…

【名もなき毒】いつもの宮部ワールド

宮部みゆきの新刊「名もなき毒」を読了しました。ここのところ現代物の長編では、妙に構成に凝っている作品が多かったのですが、この作品は割とシンプルな作りです。複数の事件が並行して展開され、最後はどうつながるのか、あるいはつなげないのかと興味が…

【帝都衛星軌道】これが自信作?

ミステリー作家である島田荘司の新刊「帝都衛星軌道」の帯には、「正直言って、自信作です」という大上段に振りかぶったコメントが踊っている。内容をざっと見たところ、僕が興味を持っている東京の地下の話が織り込まれていて、しかも僕の住んでいるエリア…

【ビジネス】ダヴィンチ・コードの余波

「ダヴィンチ・コード」が文庫化されたこともあって、まだまだダン・ブラウンをめぐるビジネスは絶好調のようだ。ダンは、僕と同じ1964年生まれでシンガーソングライターを目指していたこともあるとあって、何となく親近感を覚える作家。「ダヴィンチ・コー…

【SOKKI!】アンフェア原作者の新作

人気を博したテレビドラマ「アンフェア」の原作者・秦建日子の新作小説「SOKKI!」がついに出版されました。アンフェアの原作「推理小説」、間もなく映画化して公開される高校生の青春小説「チェケラッチョ!」と十分に満足できる内容だっただけに、楽しみで…

【村上春樹】東京奇譚集

ハルキの作品は発売後すぐに読むことが多いのですが、今回は短編集ということもあって、なかなか手に取りませんでした。ハルキ作品の良さは、その独特の世界に浸れるところ。だから長編の方が、より楽しめるんです。 この作品は「奇譚」ということで括っては…

【オリジナル小説】雪の中の道標

4週に分けて書き進めてきたオリジナル小説「雪の中の道標」が、やっと完結しました。これは大学生のころの実体験をベースにアレンジして、創作したストーリーです。ホームページにアップしたので、よかったら読んでみてください。4週に分けたとは言っても…

【シムソンズ】文学じゃないけど

トリノでの活躍で人気沸騰中のカーリングを扱った映画「シムソンズ」が、話題を呼んでいます。この作品はトリノ代表の小野寺と林がかつて所属していたソルトレイク代表チーム「シムソンズ」がどのように結成されたか、その原点を描いています。まずは原作を…

春江一也「ウィーンの冬」を酷評する

「中欧大河ロマン三部作、ついに完結」と帯に踊る文字。外交官としての経験を活かして、中欧を舞台にしたサスペンス「プラハの春」「ベルリンの秋」を書いた作家の最新作である。前二作がなかなかおもしろかっただけに、興味を持って読んでみた。これまでが…

【村上龍】半島を出よ

村上龍の小説で僕が好きなのは「コインロッカーベイビーズ」と「愛と幻想のファシズム」なので、この作品「半島を出よ」は間違いなく僕の路線だと思っていたのですが、この手の小説は元気があるときでないと自分の中で消化できないんです。それで半年以上、…

瀬名秀明「デカルトの密室」で知の探求

瀬名秀明といえば、「パラサイト・イブ」「BRAIN VALLEY」など科学者としての知識・興味をベースにしたフィクションが持ち味ですが、この「デカルトの密室」ではロボット工学やAI(人工知能)のエッセンスを添えながらも、テーマはデカルトの「方法序説」に…

【小説】わがままな遺伝子2 -サンサーラ

以前ご紹介した僕の小説「わがままな遺伝子」の続編を、ホームページにアップしましたので、よかったらぜひ読んでみてください。前作では、人間を自分たちの生の連鎖における「乗り物」であるかのように振舞う遺伝子と「戦う」女性を描きましたが、今作は自…

【ハリーポッター】6巻やっと読了

【ネタバレなし】なので、ご安心ください(^^) 5巻まではペーパーバックで読んだので、(あの分厚い「不死鳥の騎士団」でも)会社の行き帰りに電車の中で読むことができたんだけど、ハードカバーではさすがにそれは無理。家ではなかなか英語を読む集中力…

ハリーポッター6巻読んでます

土曜日に発売になったハリーポッターシリーズの最新作「Harry Potter and the Half-Blood Prince」を読み始めました。英語版なので、なかなか進まないんですよね。ペーパーバックなら通勤途上でも読めるけど、このサイズでは無理。焦らず、ゆっくり読んでい…