#小説

【鈴木光司】タイド

「リング」シリーズの続編で映画「貞子3D」の原作となった「エス」に続いて出版された鈴木光司の「タイド」。彼らしい科学と伝奇、あるいはデジタルとアナログの絶妙なバランスで書かれた小説は、「リング」を一種の聖典として扱っています。「リング」「ら…

【村上春樹】色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年

金曜日の夜に購入した村上春樹の新刊「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」を、昨日読了しました。春樹といえば「僕」を一人称としたファンタジックな小説が持ち味だったのですが、「1Q84」以降ストーリーテラーの視点での語りに転向しています。「…

【村上春樹】新刊発売の喧騒

村上春樹の新刊「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」が、今日発売されました。テレビのニュースでは午前0時に発売した書店の様子や、待ち切れずに読み進めている人の感想などを取り上げていましたが、明らかに騒ぎ過ぎな印象です。朝の通勤途中に赤…

【辻村深月】凍りのくじら

僕にとっては「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。」と「ツナグ」に続いて、辻村作品としては3作目となる「凍りのくじら」。読み始めてすぐに、著者の感性が僕のそれに似ていることに気づきました。主人公が物事に触れたときの心の動きや感じ方、そして他人との距離の…

【ツナグ】映画と原作の対比

JALの機内で映画を見た勢いで、辻村深月の原作小説も読んでみました。先日の映画の記事にコメントをいただいたので、原作のエピソードがひとつ抜けていることは認識していたのですが、そのことはあまり気になりませんでした。原作はそれぞれの章ごとに主人公…

【J.K.ローリング】カジュアル・ベイカンシー

ハリー・ポッターシリーズの完結から5年、J.K.ローリングの新作「カジュアル・ベイカンシー 突然の空席」が発売されました。ファンタジーではなく、現代イギリスの田舎町を舞台に繰り広げられる「群集劇」と言えるストーリーは、ローリングらしい詳細な心理…

【宮部みゆき】「ソロモンの偽証」読了

3分冊で各巻700ページを超える大作だった「ソロモンの偽証」をやっと読了しました。展開は面白いし、伏線も巧みに張り巡らされていて、最後まで興味を失わずに一気に読み進めさせるストーリーはさすがです。それでも僕にとっては、物足りなさは否めなかった…

【宮部みゆき】ソロモンの偽証

宮部みゆきの久々の現代モノ「ソロモンの偽証」は全三冊の大作で、しかも現時点で入手可能な第1巻も第2巻も700ページを超えるボリュームです。第2巻の公式発売日は明日なのですが、狙い通り今日の仕事帰りにゲットできました。 第1巻の印象は、「かなり風呂…

【湊かなえ】「サファイア」の売り方

「告白」の著者でもある湊かなえの、新刊「サファイア」を読了しました。作品としては十分に面白いのですが、連作短編という形を取った編集スタンスに大いに違和感を覚えます。序盤は、「短編としておもしろい作品」と「今後に向けて何かの実験をしようとし…

【ミステリー】中山七里「贖罪の奏鳴曲」

第8回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞した、中山七里のミステリー「贖罪の奏鳴曲」を読了しました。謳い文句である「どんでん返し」の結末はある程度想定できてしまいますが、奇をてらうだけではなく納得感のあるエンディング。予想された結末に向け…

【湊かなえ】狙って外した「境遇」

「告白」でのデビュー以来、立て続けに作品を出版している湊かなえ。彼女の新刊「境遇」を読了しました。本作はテレビドラマ化を前提としている上に、作中に登場する童話とのセット販売など、ビジネス優先を窺わせることから嫌な予感はしていたのです。 その…

【刑事 雪平夏見】愛娘にさよならを

篠原涼子主演で人気のあったテレビドラマ「アンフェア」の原作小説「刑事 雪平夏見」のシリーズ、「推理小説(アンフェアの原作)」「アンフェアな月」「殺してもいい命」に続く第4弾「愛娘にさよならを」が出版されています。このシリーズは、ドラマを見た…

【高野和明】ジェノサイド

サイエンスを題材にした高野和明の小説「ジェノサイド」。直木賞の候補にもなったこの作品を、一週間ほどで読了しました。遺伝学や薬学について十分に調査をした上で書かれていることには好感が持て、序盤で一気に広げられた「風呂敷」を最後できっちりと収…

【服部真澄】天の方舟

「龍の契り」「鷲の驕り」を書いた服部真澄の新刊「天の方舟」を読了しました。以前の作品はもっとしっかりと準備されていたような記憶があるのですが、正直言ってこの作品は物足りません。一番のネックは、時代を追うクロニクルな展開で予感させてくれる盛…

【湊かなえ】花の鎖

「告白」の映画公開で一気にブレイクした感のある湊かなえの新刊は、自ら「セカンドステージ」と称するように、一段上の高みを目指しているようです。「花の鎖」は、これまでの作品同様に複数のプロットが収斂していく展開ですが、これまでの「ひとつの事実…

【よしもとばなな】どんぐり姉妹

よしもとばななの著作は僕の感性に合っているのだと、最近強く感じるようになりました。大きな事件が起きるわけでもなく、淡々とした現実の中で動く感情を捉える感性が、自分に近いように感じているのです。そんな彼女の新刊「どんぐり姉妹」は、タイトルか…

【湊かなえ】「往復書簡」の限界

「告白」の著者・湊かなえの新刊「往復書簡」は、短編集でした。手紙のやり取りという同じテーマを用いながら、まったく異なるアプローチで書かれた三篇の話から成ります。これまでの「ひとつの物事でも、見る人によってさまざまな真実がある」という一貫し…

【秦建日子】新刊「ダーティ・ママ」

テレビドラマ「アンフェア」の原作者にして「ホカベン」「逃亡弁護士」「ドラゴン桜」などの脚本も担当している泰建日子。彼の新刊小説「ダーティ・ママ」を読了しました。脚本家だけに、映像を想起させるビジュアル感たっぷりの描写はさすがです。ただ、リア…

【辻村深月】ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ

もっとライトな内容を予想して読み始めた。すぐに、ギャップに気がついた。この小説は、おそらくは著者が長年、さまざまな角度から考え抜いてきた問題意識の総集編なのだろう。それほどまでに、言葉の端々、状況設定の細部にまでこだわりが感じられ、一瞬た…

【海堂尊】「マドンナ・ヴェルデ」の不満

トラックバック先のniphredilさんのブログで紹介されていた海堂尊(かいどうたける)の新刊「マドンナ・ヴェルデ」。これまでにこのブログでレビューを書いた「ジーン・ワルツ」「医学のたまご」の続編ということもあって、さっそく手にとって読んでみました…

【湊かなえ】夜行観覧車

「告白」の映画化で今が旬の作家、湊かなえ。映画のブームに乗せるように「告白」を発行している出版社から新刊を出すのは、いかにも商業ベースのタイミングですね。「告白」以降も「少女」「贖罪」「Nのために」と立て続けに新刊を上梓しているだけに作品…

【宮部みゆき】「小暮写真館」のブレ

率直に言って、宮部みゆきの作品に100%満足したのは「火車」あたりまでだ。それ以降、彼女は着想や展開そのものよりも、手法にこだわるようになってしまった。宮部の文体は、正統派古典主義とでも言うべきもの。それは、現代物よりも、彼女自身が好きなので…

【1Q84】BOOK3で完結なのか?

予想通りBOOK2では終わらず、出版されたBOOK3。そして今回もまた、微妙な終わり方で読者に謎をかけたまま終わっています。ストーリーとしては一区切りついてはいるものの、新たな世界へのシフトとも取れる伏線のようなモチーフが投げかけられ、巻末には「BOO…

【長崎尚志】アルタンタハー 東方見聞録奇譚

「20世紀少年」「PLUTO」に浦沢直樹のパートナーとして関わった長崎尚志の小説デビュー作として「アルタンタハー 東方見聞録奇譚」が出版されています。2つの作品「黄金の鶏」「黄金の鞍」による連作形式の伝奇ミステリです。20世紀少年の世界観が好きな僕…

【秦建日子】明日、アリゼの浜辺で

小説家で脚本家、そして劇団も主宰している秦建日子(はたたけひこ)の新作は、連作短編の「明日、アリゼの浜辺で」です。「ニューカレドニア」が最初はキーワードのように使われ、それが実際に折り重なって紡がれてゆく、そんな連作ストーリー。それぞれの…

【湊かなえ】Nのために

「告白」「少女」「贖罪」と、モノローグの形式に乗せてブラックさの漂う予測不能なミステリーを描いてきた湊かなえ。率直に言って、このあたりでその作風に変化をつけられなければ、この先も人気作家として生き残ることはないだろうと思っていました。そし…

【刑事雪平夏見】殺してもいい命

篠原涼子主演でテレビドラマでも人気を博した「アンフェア」の続編、秦建日子(はたたけひこ)の「殺してもいい命」が河出書房新社から発売されました。ドラマでは相棒の安藤刑事を犯人にしてしまったのですが、小説ではこのコンビが健在です。本作では安藤…

【ダン・ブラウン】The Lost Symbolを読破

ダン・ブラウンの新作「The Lost Symbol」を英語で読んでいたのですが、結局1ヶ月弱かかって509ページを読破しました。彼の作品の特徴で、やけに描写が細かい部分があるので、そのあたりは飛ばし気味でしたけどね。今回の舞台は米国の首都、ワシントンDCで…

【ダン・ブラウン】新刊の原書発売

「ダ・ヴィンチ・コード」「天使と悪魔」の著者ダン・ブラウンの新刊「The Lost Symbol」の原書がやっと発売になりました。「ダ・ヴィンチ・コード」が発売された直後から、次回作は「ソロモンの鍵」という情報があったのですが、扱うテーマは変わらないもの…

【吉本ばなな】アムリタ

僕は吉本ばななの作品を一気に読むことができません。少し読んでは本を置いて思いを巡らし、そしてまた少し読む。それには海外旅行、それも追い立てられることのないヤップへの旅は最適でした。角川文庫の上下巻を成田空港で買って持って行きましたが、結局…