WOWOWオンデマンドの配信で見た舞台作品。デヴィッド・ルヴォーが現代風のアレンジを加えた「ハムレット」。サッカーボールを持たせたり、デジタル映像を駆使したりするあたりにオリジナリティが感じられる。奇を衒ったわけではないく、物語に現実味を持たせる仕掛けということだろう。
歌舞伎を模したような劇中劇では、ハムレットの母親ガートルードを揶揄するかのような台詞回しが絶妙だ。抑揚のつけ方や表情、顔の向きなどが相俟って、実に象徴的なメッセージをクローディアスとガートルードに突きつける。
そのガートルードに対してハムレットが父への裏切りを責めるプロットでの、ふたりの演技は最大の見せ場だった。柚香光の表情にも鬼気迫るような迫力が感じられた。逆にオフィーリアが陥る狂気の描写は、個人的にはちょっと受け容れがたいもの。キャスティングのミスマッチ感もあり、ある意味では哀しさを醸し出していた。
名家の血を継ぎながら、その立場に苦しむハムレットを演じるのは歌舞伎役者でもある市川染五郎。その感情表現と発声は、さすがと感じるしかない。それだけに、かえって脇を固める若手俳優たちの粗が目立ってしまう。
梶原善の身のこなしも目を引いた。台詞に合った手や体の動きを、自然な形で表現するテクニックが秀逸。小劇場らしい演出ではあるが、適度に抑えることでシェイクスピア劇の雰囲気になじんでいた。東京サンシャインボーイズからの経歴は、日本の演劇界を支えてきたと言っても過言ではない。
クローディアスを演じる石黒賢は、WOWOWテニスのウィンブルドン中継でおなじみなだけに真面目な印象が強く、兄王を謀略で殺害して妃を娶るような悪党には見えにくい。表情は翳りを帯びて深みがあったが、声の軽さは如何ともしながい要素だ。もう少し感情の起伏を抑え、狡猾さを前面に出した方が彼の持ち味を引き出せたのではないだろうか。
ローゼンクランツとギルデンスターンは、お笑いコンビのような普段着で登場する。演じる吉田ウーロン太と竹森千人は実際、お笑いトリオ「フラミンゴ」の二人なのだが、キャラクターの位置づけとしてはなかなかよい線だ。フォーティンブラスを演じた水口早香も、意外性はあるがよいキャスティングだったように思う、
舞台となるエルシノア(ヘルシンゲル)はコペンハーゲンの北にあり、エーレスンド海峡を挟んでスウェーデンのヘリシンボリと向かい合っている。僕がクロンボー城を訪れた際に見た海峡は連絡フェリーが激しく揺れている様子が目に見えてわかるほどに波が高く、「デンマークは牢獄だ」というハムレットの台詞には現実味を感じた。