【宮部みゆき】読みやすい「楽園」

宮部みゆきの小説は、複数の筋が最後に一本に収斂していくような技巧が多様されるので、本の序盤にうちは全体像がつかみにくかったりします。その点、今回の「楽園」は途中に「断章」が挟み込まれているとはいうものの、話がうまくまとめられており、非常に読みやすい構成です。

本作は「模倣犯」に登場したライター・前畑滋子が主人公となって、不思議な能力を持ったまま亡くなった少年の遺した絵が暗示する事件を解きほぐしていきます。映画では中居正広が演じた「模倣犯」の犯人・網野浩一や、被害者の名前や設定が頻繁に出てきますが、決して「続編」というわけではなく、いわば「外伝」が拡大したものといえるでしょう。

宮部の描き出す登場人物の心理描写は見事で、これはこの人にしか出せない味だと思います。しかし、その一方で会話に使われる単語や言い回しが文語調で古臭いことはいつもながら気になります。現実の場面で27歳の女性刑事が「おっつかっつ(同年代)」なんていう単語を使うとは思えないし、いまどきの53歳主婦は自分の兄の松夫さんを「松夫兄」なんて言わないでしょう。揚げ足を取りたいのではなく、リアリティが減ってしまうことが残念なのです。

特に本作では、宮部は会話の台詞を実際の会話口調に極力合わせている節が見られるだけに、不用意に使われる堅い表現はいかにも「彼女が覆い隠していた内面」を露にしてしまったようで、読み手は居心地の悪さを感じます。ついでに言うと、僕は小説でもコミックでも「なんです」の「ん」をカタカナにするような表記は品がないので大嫌いです。これだけ言葉の使い方にこだわる宮部がそれをやっていることは、僕にとって非常に不満なのです。

最後に、やはりこの作品は読みやすいし、ストーリーの展開も納得できる上に安心もできるので、活字の好きな方はぜひ読んでみてください。