【アンフェアな月】リアリティの説得力

最近読んだミステリーもの、島田荘司宮部みゆきも、僕にはリアリティを感じられなかった。話の筋はそれなりにおもしろいのだが、現実に起きそうな気がしない。そんなフラストレーションを、秦建日子の新刊「刑事雪平夏見・アンフェアな月」はあっさりと消し去ってくれました。本筋とは関係ないアイテムが妙にリアルで、まさにその街角で何かが起きている現実感が、秦作品ではスパイスになってくれます。

劇場やテレビドラマの脚本家として活躍している著者だけに、プロットの切り方がすごくうまい。説明しないでいいところは省き、くどくなっても書いて欲しい部分には頁を割く。この感覚が、実に僕のニーズに合ってしまうのです。ストーリーも、複数の重層化された事件が、それぞれ意外な結末に導かれます。その中で、つい篠原涼子を思い浮かべてしまう主人公が、泥臭いながらもクールに仕事をしているのです。テレビドラマでは犯人として扱われた安藤刑事も、普通に刑事として活躍していますよ。

興味深かったのは、本文110頁でまるで著者自身が脚本を担当したドラマを自虐的に茶化すような記述があるところ。「これって、ドラゴン桜?」「これはアンフェアだな」「花嫁は厄年ッのことだよね」という部分がありますので、テレビっ子な方は是非チェックしてみてください。

この部分と作品中に登場する駆け出し脚本家の発言を合わせて考えると、秦はドラマ「アンフェア」で安藤刑事を犯人にされてしまったことを恨んでいるのではないかと。そしてそれは脚本を担当した佐藤嗣麻子に対してではなく、もっと上層部の制作陣に対してではないかと邪推してみたくなりました。