【宮部みゆき】英雄の書

宮部みゆきの作品は、現代ものの他に時代ものやファンタジー系の小説がありますが、「英雄の書」はファンタジーです。宮部のファンタジーは、自分が読みたいものを自分で書いているようでもあり、ファンタジーらしい設定をすることに自分で酔っているような節があります。ただ、文語調のいかめしい文体や現実っぽさが中途半端に垣間見えるあたりが、どうも煮え切らないのです。

この作品の序盤は、世界観に入り込むのにかなり苦労しました。上巻の終盤からやっと調子が出始め、下巻は勢いで読みきった感じです。主人公である「ユーリ」こと森崎友理子は小学5年生でありながら、ときおり妙におとなっぽくなってしまいます。設定もファンタジーでありながら、現代日本で起こる生々しい事件とつながっているので、バーチャル感も薄められています。

最大のポイントは、なぜこの作品をファンタジーとしてRPGゲームのような作りにしなければならなかったかが、明らかではないこと。宮部自身が作家として、「物語を紡ぎだすことの責任の取り方」を明示しているともいえるのですが、それを描くのに最適な舞台がなぜここだったのかがわかりません。この作品が恩田陸の作品だと言われた方が、納得して読み進められそうな気すらしました。

http://mainichi.jp/enta/book/eiyu/