【小説】わがままな遺伝子3

ホームページ「T's Works」の方に、久しぶりに小説をアップしました。昨年の7月から更新が途絶えてしまっていたのですが、最近また少し創作意欲が高まってきたので、以前の連作掌編シリーズ「わがままな遺伝子」の3作目として「ニルヴァーナ」を書きました。

一見恋愛もののような作りですが、輪廻、転生、再生、解脱といった世界の中で不思議な会話が展開していきます。遺伝子の思惑が勝つのか、人間の意志が上回るのか。生とは、種とは何か。そんなちょっと堅苦しいテーマが、男女の会話に乗って淡々と解きほぐされていく作品です。よろしければ、ぜひご覧ください!

(冒頭をちょっとだけご紹介)
目が覚めたのは、あまりに空気が乾燥していたからだ。はだけた肩が冷えたせいもあって、喉の奥に痛みすら感じる。厚手のカーテンに遮られた外光を微かに感じながら、僕は徐々に数時間前までの不思議な、いや恐怖すら覚えるような鮮烈な会話を思い出しはじめている。僕の左手が先ほどから感じている温もりの主は、まだ眠りの世界からこちらに戻ってきてはいないようだ。

輪廻、解脱、再生…… 昨晩、何度も繰り返し聞かされた単語だ。これまでの人生で聞いたこれらの単語の数を、数時間のうちに何回クリアしたことだろう。僕はお寺に修行に来ているのではなく、そう呼んで差し支えないなら、はじめてのデートでテックスメックス料理を食べた女性と一夜を共にしただけだ。だから朝っぱらから座禅を組む必要もないし、いくら待っても精進料理の朝食は運ばれてこない。だいいち、僕は正座ができないのだ。

http://homepage3.nifty.com/tata/gene3.htm