【帝都衛星軌道】これが自信作?

ミステリー作家である島田荘司の新刊「帝都衛星軌道」の帯には、「正直言って、自信作です」という大上段に振りかぶったコメントが踊っている。内容をざっと見たところ、僕が興味を持っている東京の地下の話が織り込まれていて、しかも僕の住んでいるエリアも登場するようなので、興味を持って読んでみました。

着想はおもしろいと思うけれど、文芸作品としての出来を一言で評するならば「駄作」以外の何物でもないと、僕は思いました。表題作の「帝都衛星軌道」は前後編に分かれていて、間にストーリー的には何の関係もない「ジャングルの虫たち」という作品が挿入されているのですが、まずはその意味がわかりません。「地下」というキーワードを意図しているんだろうけど、これは秋庭俊の書いたいわゆる「トンデモ本」ともいえる著作から見繕って持ってきただけ。僕はこの秋庭作品も読んでいるので、安易だとしか思えません。

また、この作者のストーリー展開力のなさは致命的で、語られている主体が変わるタイミングが唐突だし、読み手のことを意識して書かれていません。また説明的な文章が多すぎるし、タネ明かしのおもしろさもなく「こんなトリックを思いついた」という説明を延々読まされるのです。表記も「ヴォランティア」とか「メイル」とか書かれると、僕はそれだけで引きます。

<以下ネタバレ>
トリックにしても、山手線の田端~上野近辺は崖沿いを走ること、首都高環状線の一部はトンネルであることを知っていれば、素直には納得のいかないものです。最初はここまで酷評するつもりはなかったのですが、「自信作」なんて言われると腹立たしくなりますよ。