春江一也「ウィーンの冬」を酷評する

中欧大河ロマン三部作、ついに完結」と帯に踊る文字。外交官としての経験を活かして、中欧を舞台にしたサスペンス「プラハの春」「ベルリンの秋」を書いた作家の最新作である。前二作がなかなかおもしろかっただけに、興味を持って読んでみた。これまでが上下巻であったのに対し、この作品は1冊完結であったので、少しテーマが小さいのであろうかと思っていた。

読了してというより、読んでいる最中から僕の頭の中にあった言葉は「蛇足」だった。これは三部作の完結編などではなく、前作の登場人物を使って書いた続編でしかない。プラハの春事件やベルリンの壁崩壊というダイナミックな史実とは違い、この作品を流れるのは「ゴシップ的な興味を惹かれる史実によって、外交官OBが耽った妄想」であり、三流の茶番だ。「事実は小説より奇なり」というが、この作品は北朝鮮による拉致やオウム真理教といった事実を安っぽく模倣しただけである。

作者は、前作までに自分のストーリー構成力を過信した上に、読者は外務官僚の世界に憧れに似た興味を持っていると信じたのだろう。あるいは、外務官僚時代に知り得た情報を、フィクションの形でぼかして読者に伝えたかったのかもしれない。いずれにしても、彼の試みは完全に失敗した。添えられた「Winter in Wien」という副題も、ウィーンの英語表記がVienna(ヴィエンナ)であることを知ってか知らずか・・・