【SOKKI!】アンフェア原作者の新作

人気を博したテレビドラマ「アンフェア」の原作者・秦建日子の新作小説「SOKKI!」がついに出版されました。アンフェアの原作「推理小説」、間もなく映画化して公開される高校生の青春小説「チェケラッチョ!」と十分に満足できる内容だっただけに、楽しみでした。

この小説のタイトルにある「SOKKI」とは速記のこと。議会での速記官養成を中止するというニュースも報道されたように、速記は衰退の一途をたどる技術。そんな速記に大学時代を捧げつつ、微妙な三角関係に生きた主人公の思いが綴られます。

僕と著者とは年齢や環境が比較的近いせいか、この作品を読んでいろいろなことを思い出しました。大学時代のことって、切り取られた場面・言葉・事実としては記憶しているけど、その場で感じた空気やリアルな会話はすっかり忘れていたんだな。この作品は、本当に活きた会話と舞台設定によって、タイムスリップしたかのようにあの頃の気分に浸らせてくれます。

実は似たような三角関係の話を、僕も書いたことがあります。「トライアングル」という短編だけど、ひとつの頂点が崩れてしまうと三角形はバランスを失うっていうコンセプトは共通だと感じました。

中篇以上の作品はテーマとは直接関係のない挿入されたエピソードにどれだけ共感できるかが、テーマの掘り下げに深く寄与しますよね。秦建日子が提示してくれる「疑似体験」は、その意味で十分僕を彼の世界へ連れ去ってくれます。軽く読めるので、お勧めです。