【小説】瀬名秀明vs海堂尊

科学をベースにした小説を、立て続けに読みました。まずは「パラサイト・イヴ」「Brain Valley」で読者に戦慄を覚えさせた瀬名秀明の「Every Breath」。そして、「チーム・バチスタの栄光」以降快進撃を続けている海堂尊の「ジーン・ワルツ」です。

瀬名秀明は「パラサイト~」以降徐々に書くべきテーマを失いつつあるように思っていました。「Brain Valley」はおもしろかったものの、「デカルトの密室」では筆致や設定は優れていながら、僕にはテーマが希薄で物足りない読後感を持たされた結果となりました。この「Every Breath」も科学の先進的な素材、特にバーチャル・リアリティを素材として取り上げているので興味深くは読めるのですが、著者が何を言いたかったのかが明確でありませんでした。小説めかした科学エッセイという印象で、「お金のため」とは言いませんが、著者の中で熟成されないままに出版されてしまったようで残念です。

一方の「ジーン・ワルツ」は、奇しくも瀬名のデビュー作に近い遺伝子/発生/出産ということがテーマとなっています。しかし、海堂のペンは決して科学偏重に走らず、産婦人科医療が直面している現代日本の社会問題に正面から切り込んでいます。このリアリティ、そして主人公曽根崎理恵のキャラクターの明確さが読者をこの作品に引き込んでいくのです。

別に勝負ではありませんが、この2作品の対比では、海堂尊ジーン・ワルツ」の完勝でした。僕としては、瀬名秀明の巻き返しをぜひとも期待したいところです。