【海堂尊】「医学のたまご」の意図

チーム・バチスタの栄光」などで売れまくっている海堂尊。先日レビューを書いた「ジーン・ワルツ」に続いて「医学のたまご」を読んでみました。登場人物がつながっており、また「ジーン~」の中で「医学のたまご」という単語が小ネタのように使われているので、関連性を感じたのです。

ジーン~」は不妊治療と代理母出産がテーマですが展開もわかりやすいし、専門用語が出てきても難解にはなっておらず、自然な流れの小説として読めて良かったのです。しかし「医学のたまご」は、読み始めてすぐに違和感を覚えました。この作品は、いったいどんな読者を対象に書かれているのだろうかと。

主人公は中学生ですが台詞は「子どもっぽさ」を過度に狙いすぎています。いまどきの中学生がこんな言葉を使うとも思えないし、設定にも無理があり、しかも横書きの構成。中高生に医学界の現実と医学のおもしろさを伝えようというのなら、明らかに失敗作です。一般の大人には内容はおもしろいのですが、設定の稚拙さに辟易してしまう人も多いでしょう。

この謎は、恐らく著者が意図していたわけではないのでしょうが、「感謝の言葉と未来への言葉」と題された後書きで明かされます。本作の初出は「日経メディカル」。つまりこれは、医者や看護師ではないけれど医学に関わっている人、例えば薬品会社の営業や基礎科学の研究者、あるいは医薬品業界志望の大学生といった人にとっては格好の入門書となり得るのです。後書きを読む限り、著者は「中高生向き」に書いているようですが「日経メディカル」に掲載していなければ駄作として終わったかもしれません。

それほどにストーリーやワーディングのクオリティは低い作品で、よく海堂尊が短期間で「ジーン・ワルツ」の域に達したのかという新たな謎が生まれました。