【村上龍】半島を出よ

村上龍の小説で僕が好きなのは「コインロッカーベイビーズ」と「愛と幻想のファシズム」なので、この作品「半島を出よ」は間違いなく僕の路線だと思っていたのですが、この手の小説は元気があるときでないと自分の中で消化できないんです。それで半年以上、読む機会をうかがっていました。

この作品を読んで、あらためて村上龍の凄さを感じました。確かに入念な取材に基づいているとはいえ、いくら取材してもここまで「自分が所属していない文化における物の考え方」になりきって描写できる作家は稀有だということです。彼は、北朝鮮の兵士や日本のホームレス、官僚、暴走族などの心の動きを「なるほど」と思わせるほど絶妙に描いています。同時に、現代日本が浸ってしまっている緊張感のない弛緩した思考に対して、警鐘を鳴らしているように読めました。あれだけ緊張感に満ちた北の兵士ですら、日本に染まったら破滅するということを自虐的に表現したかったんじゃないかな。

僕にとって上記の作品群は、マンガ「ナニワ金融道」や「カバチタレ」と同列にあります。法律や正義、常識が通用しない弱肉強食の世界は、意外にも自分たちの生活のすぐそばにあるということを思い出させてくれるんです。

ところで、この作品、半島を「いでよ」だよね? 半島を「でよ」じゃ語呂が悪いし語感も悪い、と思ってウィキペディアを検索してみたら「いでよ」とルビが振ってあって、ひと安心です!