【村上春樹】1Q84は原点回帰

爆発的な売れ行きを示しているらしい、村上春樹の新作「1Q84(イチ・キュー・ハチ・ヨン)」。その不思議なタイトルにも惹かれるが、内容もハルキワールドが満載だ。「海辺のカフカ」や「アフターダーク」では現実味が濃くなっていたものの、本作では彼本来のファンタジックな要素が前面に打ち出されている。初期三部作の頃の「羊男」や「カンバルー」を思わせるファンタジーのようなキャラクター「リトル・ピープル」の登場がその一例だ。

そして彼らしい「節回し」も随所に見られる。生活哲学のような定型句を何度も繰り返したり、時には傍点を打ってみたり。可能性のある事柄を挙げるのに極端な例を書き連ねるのも、いかにもハルキ作品だ。しかし、その反面、初期作品には見られない特徴もある。それは年を経るごとに強くなっている、性的な描写の増加なのだ。これが人間のカルマだと言わんばかりに繰り返される具体的で執拗な性的描写は、好き嫌いが分かれるところだろう。

そしてBOOK2の最後は、とても思わせぶりだ。「これで終わり」と言われても納得はできるし、「続編がありますよ」と囁かれたら多くの読者が喜ぶはずだ。謎が謎を呼んで、その一部が新しい局面を迎えたところで下ろされた緞帳は、かつての「ねじまき鳥クロニクル」のように時間を置いた3巻目の刊行を期待させずにはいられない。

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