【人事の話】企業買収の値段

もちろんケースバイケースではありますが、企業を買収する際の金額には、人員調整の費用が含まれている場合があります。言い方を変えると、「売られる企業の人員が今はどうなっていて、売却時点までにどうするのか」という前提を決めて、それによって金額の交渉を行います。

例えば既存社員100名全員の雇用を確保するならば1,000億円で、100名に早期退職を募集して売却時までに70名にまで減らすなら1,200億円というような選択肢になります。人が多い方が金額が高くなりそうな気もしますが、「人が多い=収益が少ない」ということなので企業価値は下がると見られてしまうのです。このような場合に行われる早期退職は割増金を支給するのですが、会社側に承認の権限があって、残って欲しい(=買った企業が必要としている)社員には支給せず、辞めてほしい社員にだけ割増金を認めます。退職自体には、社員に「退職の自由」が保証されているので拒むことはできませんが、割増金はあくまで会社の裁量なので選択権があるのです。

だから、「雇用が保証されているのに、退職する社員に割増金を支給する」ケースは原則的にはあり得ません。ずいぶん虫の良い話だと思うかもしれませんが、そこまで金額に織り込まれてしまっているということなのです。ただ、そんな前提条件を社員や世間に公表するはずはないので、あくまで内々に進められることになりますが… すべてが金なのかと思うと嫌らしいけれど、経済って基本的にはそういうものですから、仕方ないとも言えます。