【カルロ・ロヴェッリ】Helgoland

カルロ・ロヴェッリの"Helgoland"は、量子論を哲学的にわかりやすく読ませてくれるエッセイのような内容。邦訳版では「世界は関係でできている:美しくも過激な量子論」というタイトルがつけられているので、より内容が伝わりやすいだろう。量子論では、観察者が物の存在や実体を決定している、言い換えると観察者がいなければ物は存在しないという視点に立つので、自然科学とは思えない情緒的な要素が目についてしまう。この書籍も読めば読むほどに、哲学かあるいは宗教にも似たような居心地の悪さも感じてしまうが、一方で心情的には納得できてしまうのだ。

僕はかなり昔になるが、「人の死とは肉体的な死ではなく、その存在を知る人がこの世からいなくなること」ではないかと思っていた。それはまさに量子論的な考え方であったのだと、あらためて気づかされた。「観察者が物質を予測し、解釈している」ということも、日常的な対人のコミュニケーションの中で体感していることにすぎないし、量子の波動や不確定性原理からは「自然界にもバグが起こる」ことが理解できる。量子の考え方で世界を見つめなおすと、いちいち納得できてしまうのが興味深いし面白い。

以前読んだ同じ著者の邦訳版「時間は存在しない」も、僕が昔から考えていた「時間とは状態変化を定量化したものにすぎないから実体はなく、遡るという概念も存在しない」ということと不思議なほどに合致した。書かれていることをすべて信じるほどに理解できているわけではないが、社会人としての生き方の参考にも十分なる内容なので、科学に疎い人にもぜひオススメしたい。