【田坂広志】死は存在しない

工学出身で経営学の教授を務める田坂広志の新刊は、光文社新書の書き下ろし。カルロ・ロヴェッリの著作を読んで量子論への興味が増していたところだったので、副題の「最先端量子科学が示す新たな仮説」に釣られてしまった。実際に読んでみると、科学的なアプローチはほとんどなく、哲学もしくは宗教色の強い書籍になっていた。

ただ、哲学的にこの書籍を読むことには、十分に意味がある。田坂が説く「死」の概念は僕がもともと抱いていたイメージに非常に近いものだし、自我が宇宙意識に成長してゆくという考え方も納得感がある。論拠があまりにも一足飛びなので、彼が提示する「セロ・ポイント・フィールド仮説」を信じるところまではいかないが、すべての量子の営みをホログラムとして記録することは可能だと思うし、量子の波動に偶発性があるということもよくわかる。つまり、物理法則に厳密性はないし、バグが起き得るというか起きて当然だということだ。

量子に意志があるとすれば、当然にDNAにも意志はあるだろう。そう考えれば進化をダーウィニズムとは異なる視点で見ることも可能だ。例えば新型コロナウイルスがこれだけ速いサイクルで特性を変えていることを考えれば、そこに何らかの意思が介在したと考える方が自然なはず。個人の意思とか自我というものが、ある範囲の量子の総意だと考えれば、自分の肉体で意志とは別に動き続ける不随意筋のことも理解できるような気がした。