【映画】ザリガニの鳴くところ

<ネタバレあり>

 

ジャンルとしてはサスペンスと言ってよいのだろうが、見終わってみて感じたのは「正義とは何か」ということだった。この世に、絶対的な正義など存在しない。量子論的に言えば、観察者がいて初めて世界が存在するということなのだが、結局は誰もがすべての事実を俯瞰できない中で、誰の主観をもって判断するのかという問題に行きつく。そして、犯罪捜査から裁判にかけての正義とは、最終的な行為のみを問うのか、あるいは経緯まで含めて総合的に判断するのかによっても変わってしまう。

この作品で描かれる正義は、虐げられるものが生き抜くために必要なものを保護するということ。それも結果論でしかないのだが、生存権こそが基本的人権の中心にあることを考えれば、納得はできるところだ。社会というものは本来、暴力や不正義から個を守るために相互に契約された共同体だということもできるが、その社会が本来の役目を果たせずに弱者をより弱く設えてしまうのであれば、もはや社会に依存する理由はない。法とは何のために存在するのかという問題もまったく同じで、自分を守ってくれない法に従う義理はないという考え方を否定するのは難しい。

終盤は比較的メルヘンチックに、平安の訪れたカイアとテイトの生活が描かれるが、その中で突然に拍子が変わったかのような展開になるところが、本作の最大の山場であり魅力でもある。その場面を担う老年のテイトを演じるサム・アンダーソンは、僕にとっては「LOST」のバーナードなのだが、深みのある演技はさすがの一言だ。