#書評

【朝日新書】人類の終着点

エマニュエル・トッドやマルクス・ガブリエル、フランシス・フクヤマらの知見がアンソロジーのように詰め込まれた一冊は、「戦争、AI、ヒューマニティの未来」という副題が添えられている。ウクライナやパレスチナでは戦いが起こり、生成AIが人間の領域に進…

【柚木麻子】BUTTER

以前から気になっていた書籍だったが、手に取ったきっかけは英国人フードライターのナイジェル・スレイターのInstagramだった。英語に翻訳されても、食のプロにインパクトを与える小説。興味を持たずにはいられなかったので、すぐに書店で新潮文庫版を手に入…

【ターシャ・ユーリック】インサイト

ラグビー指導者である中竹竜二さんのセミナーを11月にオンラインで受講した際に、中竹さんが紹介していた「インサイト」を原著で読んでみた。楽天ブックスでオーダーしたものの、入手できなかったということで3週間待ってキャンセルされ、あらためてAmazonで…

【小説】六人の嘘つきな大学生

浅倉秋成による就活を扱ったミステリ。そう言ってしまうと、数多ある通俗作品のひとつのような印象を受けてしまうし、僕も会社の同僚にこの作品を紹介されたときにはそう感じていた。序盤は確かに、そんな印象で物語が展開するのだが、後半に入り、話が佳境…

【書籍】スクラムの拡張による組織づくり

かつて同僚だった粕谷大輔さんの著書「スクラムの拡張による組織づくり(技術評論社)」を読んでみた。エンジニアではない僕にとっては、組織論としての位置づけの方が大きかったが、スクラムやアジャイル開発のフレームワークにも興味があるので、論点はそ…

【村上春樹】街とその不確かな壁

2つのプロットがひとつに収束してゆく流れには、既視感を感じていた。それは「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」の体裁だが、その流れで完結したかのように見えた第1部の後にも、さらに物語は用意されていた。第1部では「ぼく」と「きみ」、「…

【ユヴァル・ノア・ハラリ】ホモ・デウス

「テクノロジーとサイエンスの未来」というサブタイトルがつけられているが、そんな前向きで明るい未来の話ではなく、コンピューターやアルゴリズムが人間の思考や感情を超えたときに我々はどうなってしまうかという内容だ。ある意味ディストピアのようでも…

【Avi Loeb】extraterrestrial

タイトルは「地球外生命体」という意味だが、著者としてはそこにフォーカスを当てたいわけではなかったようだ。「'Oumuamua」という隕石か小惑星のような物体が太陽に接近して、急に軌道を変えて去って行ったという事実から科学的なデータに基づいて検証を行…

【田坂広志】死は存在しない

工学出身で経営学の教授を務める田坂広志の新刊は、光文社新書の書き下ろし。カルロ・ロヴェッリの著作を読んで量子論への興味が増していたところだったので、副題の「最先端量子科学が示す新たな仮説」に釣られてしまった。実際に読んでみると、科学的なア…

【カルロ・ロヴェッリ】Helgoland

カルロ・ロヴェッリの"Helgoland"は、量子論を哲学的にわかりやすく読ませてくれるエッセイのような内容。邦訳版では「世界は関係でできている:美しくも過激な量子論」というタイトルがつけられているので、より内容が伝わりやすいだろう。量子論では、観察…

【ビジネス書】GE帝国盛衰史

僕が以前勤務していた会社に関する内容なので、興味を持って読んだ書籍「GE帝国盛衰史」。この本にも書かれている通りだが、僕の肌感覚でもGEの業績は間違いなく「M&A」と「攻撃的会計」に依存していたと感じる。僕が過去に勤務していた別の会社でも、期末に…

【Jean-Luc Nancy】An All-Too-Human Virus

フランス人哲学者のジャン・リュック・ナンシーが書いたエッセイを英語版で読んだが、フランス語からの英訳、難解なコンセプト、複雑な言い回しという中でどこまでナンシーの思いを理解できたかはわからない。ただ、それでも、このコロナ禍の状況において我…

【書籍】6度目の大絶滅

"Under a White Sky"を原著で読んで興味を持ったエリザベス・コルバートの「6度目の大絶滅」を邦訳版で読んでみた。環境問題を扱っているのだが、コルバートの文章は押しつけがましさがなく、冷静に事実とそこから導かれる推論を語ってくれるので、ポジティ…

【洋書】Peter 2.0

丸善に平積みされていた「NEO HUMAN」に興味を持って手に取ったものの、横にあったその原著「Peter 2,0」の方を買ってみた。医学用語やIT用語はやや多めだが、英語としてさほど難解ではないので読みやすい。310ページを、結果的に2週間で読了することができ…

【原田マハ】リボルバー

史実に着想を得て、ある意味「妄想」を膨らませることで作品に仕立てる。それは、小説家ならではの仕事であり、特権でもある。この作品「リボルバー」はフィンセント・ファン・ゴッホとポール・ゴーギャンという二人の後期印象派の画家を実質的な主人公とし…

【小説】シブヤで目覚めて

日本通のチェコ人作家アンナ・ツィマによる、ファンタジー要素と大正記の日本文学へのオマージュに溢れた斬新な作品。作中には、いかにも引用したかのような懐古調の文体で「川下清丸」という小説家の作品が登場するが、実はこれもツィマの創作だ。チェコ語…

【近藤康太郎】三行で撃つ

「三行で撃つ〈善く、生きる〉ための文章塾」は、朝日新聞で名物記者と呼ばれる近藤康太郎の著作。文章を書く者の心得といえる内容で、書くことにそれなりにこだわりを持っている僕にとっては刺さる内容が多く、これからのバイブルになりそうな本だった。(…

【小沼竜太】伝え方は「順番」がすべて

光文社新書の「伝え方は『順番』がすべて」が示唆に富んでいて面白かった。著者の小沼竜太は、ゲームのマーケティングを手掛けるリュウズオフィスの代表で、「真・女神転生」や「Fate/ Grand Order」などに携わったその道の第一人者だ。 ゲームの販促では、…

【小説】海が見える家 それから

はらだみずきの前作「海が見える家」を読了した直後に、たまたま書店で見かけて迷わず購入してしまった続編「海が見える家 それから」。前作で欠けていたキャラの立て方には、かなり注力した印象があり、登場人物のバックグラウンドがしつこいくらいに描かれ…

【小説】海が見える家

はらだみずきの「海が見える家」は、文庫化にあたり「波に乗る」を改題した作品。突然死した父親が南房総に残した家で遺品整理をする中で、都会とは異なる生活様式に触れて徐々に惹かれてゆくストーリーだ。舞台となる富浦は、僕が小学生のころに叔父によく…

【原田マハ】風神雷神

原田マハの新刊「風神雷神」を読了した。彼女の持ち味は専門領域であるアートを素材とした展開力だが、これまでにも増して壮大なフィクションに仕立て上げられていた。悪く言えば「大ボラ話」でもあるのだが、掛け値無しに面白いし、先を読みたくてワクワク…