【宮部みゆき】過ぎ去りし王国の城

宮部みゆきの新刊「過ぎ去りし王国の城」は、最近宮部が傾倒しているRPGのような仕立てのファンタジー。大きなテーマとしては、「カタストロフ」。僕の好きな橋本治の「暗夜」や荒俣宏の「帝都物語」にも共通する壮大で切ないテーマなのですが、すべてにおいて中途半端なのがとても残念です。

ファンタジーに括りはしましたが、完全に作り話の世界に浸るのではなく、現実世界の生々しいエピソードを強めにまぶしています。これが第一の中途半端。そして、SFやウェブの要素を使いながら科学の下調べが浅く、それをごまかすかのように子供を主役に配しているところも、僕には好きになれません。

もともと宮部の文学少女然としたワーディングが引っ掛かってしまうのですが、現代日本語では登場することのない「へどもど」や時代を感じさせる「パクつく」のような単語が、ストーリーからリアリティを奪ってゆくのです。

いずれにしても、この作品はもっと構想を練り込んで書き直したら全三巻くらいの重厚な大作にできそうなのに、安易にこのページ数でまとめてしまったのはもったいなく感じます。