【J.K.ローリング】カジュアル・ベイカンシー

ハリー・ポッターシリーズの完結から5年、J.K.ローリングの新作「カジュアル・ベイカンシー 突然の空席」が発売されました。ファンタジーではなく、現代イギリスの田舎町を舞台に繰り広げられる「群集劇」と言えるストーリーは、ローリングらしい詳細な心理描写にあふれていました。その意味では、410ページの全2巻は、最後まで興味を引っ張ってくれる展開の面白さがあります。

ただ、この作品の書評に「心から感動した」とあることに違和感を禁じえません。展開は面白く、登場人物のキャラクター設定は見事というしかない完成度なのですが、感動するような話ではないのです。結末だけで言えば、僕がこれまで見た中で最悪の映画だと思っている「蝿の王」並みのやるせなさと失望感を与えてくれます。それでも駄作とは位置づけられないのは、前述した心理描写の巧みさなのです。

特に子どもの心理は驚くほど真に迫っており、ハリー・ポッターのような子どもを主人公にした作品で成功した真価をいかんなく発揮しています。もうひとつ難点を挙げるとすれば、翻訳の稚拙さ。翻訳文学の流儀に沿った訳出は、推敲の跡をまったく感じられず、会話のリアルさを感じられないのです。ハリー・ポッターに比べると驚異的な早さで日本語版が出たことは評価しますが、スピードを重視するあまりこの程度の翻訳でお茶を濁すのは原作に失礼です。

http://www.bookclub.kodansha.co.jp/books/topics/casualvacancy/