【Bon Jovi】Thank You, Goodnight

ボン・ジョヴィのドキュメンタリー「Thank You, Goodnight」がDisney+で配信されている。バンドの歴史を辿る内容なので、音楽が前面にフィーチャーされているわけではないが、ジョンの真面目でエンタメに徹する姿勢があらためて感じられる内容だ。リッチー・サンボラのアルコール依存症に起因する脱退はあったものの、ジョン自身は「健全な」路線を維持している。ポップな要素も含みながら、ハードすぎないロックンロールを聴かせてくれる。そんな彼らの色を再認識させられる、硬派な構成だ。

政治的なムーブメントにも乗らない方向だったはずが、アル・ゴアの支援以降は民主党支援が明確になり、9.11の際には米国市民として周囲を巻き込む行動も起こしている。基本的にはミュージシャンであり、エンタメの世界で生きていながらも、自分たちの持つ影響力に興味がないわけではなく、それを使う方向が本業とズレないように選んでいるという印象を受ける。

ボン・ジョヴィの来日公演では、一番の山場になるはずの"Livin' on a Player"で、サビの部分をオーディエンスにシンガロングさせてジョン自身はマイクを自分に口元から遠く離していたことに違和感と不満があった。高音が出なくなったという衰えを、何とかポジティブにごまかしているような気がしたからだ。しかし、このドキュメンタリーを見てあらためて気づいたのは、ジョン自身がそれを望んではいないということだった。

ジョンは自分のパフォーマンスに限界を感じたら引退しようという気持ちもある一方で、何よりも目の前のファンを楽しませたいとも思っている。だからサビが歌えなくなったとしても、"Livin'~"をセットリストから外す選択肢は考えられない。自分ができる範囲の最善の選択肢としてあの形になったのだと考えると、納得感しかなくなってしまった。にこやかにマイクをオーディエンスに向ける表情はごまかしではなく、この楽曲を一緒に楽しもうというメッセージなのだ。