【ドラマ】グリセルダ

実在するコロンビア出身のコカイン密売組織の女王グリセルダ・ブランコの半生を全6話で描いているだけに、ところどころ時間軸が跳躍し、展開についてゆけなく部分があった。それにしても、グリセルダを演じたソフィア・ベルガラの鬼気迫る演技に圧倒されてしまう。吹替版も、スペイン語の部分は元の音声をそのまま使っているので、役者の迫力がストレートに伝わってくる。吹替を担当した声優にとっては、かなりハードルの高い仕事だったことだろう。

序盤では「女だから」と見くびられ、悪の組織を率いる男性に騙され、手玉に取られ続ける。しかし、グリセルダはそこで貯めこまれた負のエネルギーをアグレッシブに解き放って、男性社会に逆襲を果たす。彼女を追い詰めるマイアミの刑事も女性で、こちらも男性社会で虐げられたところから「成り上がる」という設定になっており、中南米の社会の状況が垣間見える。マイアミも「中南米の首都」と呼ばれているくらいだから、同じ範疇に括ってしまってもよさそうだ。

グリセルダの息子たちが悪の道に染まってゆく様子も、見ていて恐ろしいものがある。米国ドラマにありがちな「家族のため」という思いで、グリセルダは結果的に家族を崩壊させてしまうし、疑心暗鬼になって仲間も失ってゆく。権力と金の代償がどれほど大きいかということを、これでもかというくらい畳みかけてくる展開には、身につまされるものがある。

そんなグリセルダのような相手には論理や「常識」が通じるはずもないが、平和な日本にいると、ついそんなことも忘れてしまいがちだ。生きるか死ぬかという社会で正義を振りかざすのは、並大抵のことではない。