【映画】終わらない週末

原題は"Leave the World Behind"なのに邦題を「終わらない週末」としたことは、この作品の本質を伝える上では大きな失敗だったのではないか。吹替版で見たので原語で何と言っていたかわからないのだが、確かに冒頭の部分でジュリア・ロバーツ演じるアマンダの台詞に「終わらない週末」が出てくる。しかし、このタイトルから連想するストーリーはコメディか軽めのサスペンスという感じでありながら、実態としてはSFスリラーのような内容。見る前と後のギャップは大きかった。

物語の中では何が起きたか誰にもわからない状況ながら、悪だくみを仕掛ける組織はアラビア語の使い手ということでイランが想定され、北朝鮮、中国、ロシアという国名も並べられる。西側世界の常套手段と言えばそれまでだが、やはり平和を脅かす存在としてはこれらの国が想定しやすいということだ。

それにしても現代の社会は、過剰なまでに相互依存しているという事実を痛感させられる。古代、あるいは中世でも、小さな共同体の中で自給自足の生活が可能だったはずだが、今や分業が地球レベルで行われているので、その通信や運輸を断ち切られてしまうと通常の生活が営めない。便利さの裏側にこれだけの不便があるということは自宅のWi-fiが落ちたときにも感じたが、人類が社会構造を複雑にしてしまったからこそ、その関係性を脅かす「悪者」の存在を排除しようとする行為はなくならないのだろう。

世界が分断されていれば、対岸がどうなっていようとも普通に生活できる。エンディングでのローズは、対岸に危機が及んでいる中で自らの日常を楽しもうと行動しているが、それこそが現代のこの社会構造を原点回帰させるモチベーションなのかもしれない。

ジュリア・ロバーツイーサン・ホークが親しみやすいキャラクター設定である一方、マハーシャラ・アリは浮世離れしていた。序盤は特にその傾向が強いのだが、物語の進展につれて徐々に「普通の人」らしさを強めてゆくあたりの演じ分けは、さすがの一言だ。二つの家族のそれぞれの娘を演じるファラ・マッケンジーとマイハラも、存在感のある個性的な演技を見せてくれる。「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー ホリデー・スペシャル」ではピーター・クイルのアイドルとして描かれていたケビン・ベーコンが、悪役として登場するのも興味深い。