【ターシャ・ユーリック】インサイト

ラグビー指導者である中竹竜二さんのセミナーを11月にオンラインで受講した際に、中竹さんが紹介していた「インサイト」を原著で読んでみた。楽天ブックスでオーダーしたものの、入手できなかったということで3週間待ってキャンセルされ、あらためてAmazonでオーダーし直して年末にようやく到着するという、苦難の道のりだった。

ここで語られるポイントは「自分の言動が他人にどう見えるかを理解すること」だが、これは決して「見栄え」や「演技」を指南するのではなく、「自分の思っているようには相手に伝わらない」ことを理解する重要性を説いている。コミュニケーションにおいては、「(相手に)伝わったことが、(自分が)伝えたこと」になってしまうのだ。

これに気づくために、適切な相手からフィードバックをもらうことが推奨されるが、思い込みの激しい人はフィードバックを受けても、無意識のうちに中身をすり替えてしまう。これは組織開発で使われる360度評価でもよくある話で、自己防衛本能が働いてしまうということ。人事の世界に長く携わっていた自分を振り返ってもその傾向は否定できないので、世の中的にも簡単なことではなさそう。だからこそ、この本に書かれていることに価値があるのだろう。

現代社会においては個性が尊重されるが、この本の中で欧米における子供の名づけ方が聖書の登場人物から独自性の高いものに移行している事実が示されている。多様な価値観を認め合う「ダイバーシティインクルージョン」は異なる価値観と折り合いをつけることであり、現実的にはかなり難しいものだ。

具体的なテクニックとしては、相手に「Why(なぜ)」ではなく、「What(何)」と問いかけること。理由を聞くと問い詰めているような、否定しているような印象を与えるが、「何がそうさせたのか」「何がその状況の根幹にあるのか」を尋ねることで、お互いを理解するための距離が縮まる。

また、日本企業はPDCAを回させようとすることが多いが、振り返って分析することがかえってネガティブな感情を増幅してしまう危険性も著者は指摘している。現実的には、このあたりが有用なヒントになるだろう。