【映画】シン・仮面ライダー

<ネタバレあり>

 

 

非常に重いテーマを扱った内容となった「シン・仮面ライダー」は、見応えは十分すぎるほどにあったが、ちょっと盛り込み過ぎた感も否めない。幸福とは何か、善とは何か。それがひとつに収束しないところに、社会を維持することの難しさがある。それは価値観の違いと呼べばそれまでなのだが、ダイバーシティインクルージョンという言葉が安易に使われる一方で、その本質や実現の困難さにまで理解が及んでいる人がどれほど存在するのだろうか。本郷猛が「コミュ障」として描かれているが、それは価値観の違いに気づき、それを合わせ込んでゆく作業に絶望した結果としての状態ともいえる。感覚が研ぎ澄まされた人ほど、陥りやすい。

アクションシーンで大量に出血するところも本作の特徴だが、これは殺戮の重さを表現しているのだろう。これだけの結果を引き起こす「暴力」を、本当に意図して実行したのかという問いかけがなされているように感じた。また、一文字隼人の台詞に「謝罪じゃない、そこは感謝だ」というものがあったが、日本人がすぐに「ありがとう」より「すみません」という言葉を口にしてしまう傾向はその通り。ベクトルを自分に向けるのではなく、相手に向けようというメッセージでもあるはずだ。

原作を知っている者としては、ふんだんに仕掛けられた原作に対するオマージュも見逃せない。変身シーンやアクションはもちろんのこと、ライダーキックの体勢や線路の上をサイクロンで疾走するシーンもそうだ。本郷猛の長髪がマスクからはみ出るところにも、原作への思いが感じられる。そうでなければ、ビジュアルとしては出来損ない感を増してしまうだけだからだ。

池松壮亮柄本佑の雰囲気も、何となく藤岡弘佐々木剛を意識しているようにも思えるし、政府筋の関係者の名前が原作の「おやっさん」と同じ立花であることが最後に明かされたことも、原作世代へのサプライズプレゼントだ。ロボット刑事Kとキカイダーを模したキャラクターが登場するのは、石ノ森章太郎へのオマージュだろう。個人的には市川実日子がほぼ写真だけの登場だったことが残念ではあるが、十分な存在感を発揮していたと思う。