【木下Gジャパンオープン】決勝

木下グループジャパンオープン・テニスチャンピオンシップス2023も、いよいよ最終日。まずはダブルスの決勝をリンキー・ヒジカタ/マックス・パーセルとジェイミー・マレー/マイケル・ヴィーナスが戦う。

序盤はディサイディングポイントの多い競った展開。それでもジェイミーのフロントでの動きが冴え、さすがに巧いと感じざるを得ない状況だったが、リンキーとパーセルがサーブで流れをつかみ、第7ゲームをブレークするとそのまま押し切った。

セカンドセットに入るとジェイミーの動きが鈍ってしまったのだが、これは日程の影響もあったのではないか。前日の遅い時間まで準決勝を戦っていたジェイミーとヴィーナスは、その前の日に準決勝を戦ったリンキーとパーセルに比べて不利だったことは間違いない。第1ゲームをブレークすると、そのまま4ゲームを連取し、一気に勝利を手繰り寄せた。

リンキーは僕の期待通りに、日本語でもスピーチを聞かせてくれた。「日本に帰って来て」という表現を使い、ネイティブではないながら流暢な日本語で「来年も絶対出ます!」という力強い宣言。昨年のこの時期は日本のチャレンジャー大会を転戦していただけに、「土方凛輝」という日本名を持つ選手の成長を感じるのはうれしい。パーセルは、自分以外の誰かがサーブを打つときでも観客が歩いているのを気にしていたが、神経質というよりは「良い人」なのだろう。

シングルスの決勝は、緊張感のある締まった内容になった。カラツェフはギロン以上にミスをしないテニスで、準決勝同様に要所でサービスエースを叩き込む。シェルトンも彼にしては安定したプレーで、無理をしないような戦術を取っているように思った。父ブライアンが授けた戦術なのかもしれない。

ファーストセットはどちらかと言えばカラツェフのペース。シェルトンがブレークするのは難しいようにすら見受けられた。しかし、5-5で迎えた第11ゲームでシェルトンがブレーク。カラツェフのダブルフォルトが絡んでいただけに、カラツェフにとっては悔やまれる展開だった。

これでカラツェフのテンションが変わってしまったのか、セカンドセットは早々にシェルトンがリード。落ち着いたメンタルを示していたカラツェフがラケットを何度もコートに叩きつける場面があったが、これはカラツェフが40-0としながらチャレンジで判定が変わったポイントを経てシェルトンがアドバンテージを握った直後だった。

終盤はシェルトンらしい豪快なサーブやダウン・ザ・ラインも増え、リターンゲームで迎えた最初のチャンピオンシップポイントを取ってATPツアー初優勝を決めた。勝利後は手を胸に当てて静かに喜びを表現すると、カメラのレンズには"Show Me Something, Arthur"と書き込んでいた。これは準決勝の勝利後にシェルトンが書いた"Humble & Hungry"に反応したフィスに向けてのメッセージだったようだ。ちなみにフィスは、アントワープの準決勝でチチパスを下して決勝に進んだものの、ブーブリックに敗れているので、「俺に続け」ということだったのかもしれない。

結果的に決勝は、僕が望んでいた結果になった。今回のジャパン・オープンはこれまでで最多の動員を記録したようだが、その裏にはデイセッションとナイトセッションの分離やシニア層の増加で平日の動員が増えている効果もあるはず。単純にテニス人気と捉えることはできないとは思うが、望月の活躍もあって盛り上がったのは間違いない。

スタンドの雰囲気も、数年前に比べると拍手のタイミングもよく、声の応援も増えた。このあたりは松岡修造も「伊達さんに怒られる」と言っていたが、かつて伊達公子が試合中に叫んだ「溜息ばっかり!」が転機になっているのではないだろうか。