【木下Gジャパンオープン】準決勝

この日の僕の興味は、テニスファンとしての現実的なものだった。シングルス決勝のカードがギロンとカラツェフになってしまったら、玄人好みの展開にはなるかもしれないが、率直に言って観戦するモチベーションは上がらない。だからシェルトンと望月に勝ち上がって欲しかったし、少なくともシェルトンのツアー初優勝への期待は残してもらいたいと思っていた。

シェルトンとギロンの準決勝第1試合は、シェルトンらしい勢いのあるショットでリードする展開。このまま行けば、かなり早く終わるのではないかとすら感じていた。しかし、ギロンが正確なプレーでシェルトンのパワーを抑え込むことが成功し始め、第10ゲームでブレークバックすると流れをつかんでタイブレークを制する。

セカンドセットもギロンが2ブレークアップとなり、モチベーションの上がらない決勝を覚悟しつつあったのだが、ここからシェルトンが巻き返す。それほどプレー内容が変わったようには見えなかったのだが、ここでシェルトンのテニスを振り返ってみると、力任せに打つ思い切りのよいショットは封印されていたことに気づいた。それは戦術的なものなのか、あるいは連戦の影響なのかはわからないが、松岡修造が「ここで?と思うようなところでも強打する」と評していたシェルトンは、ここから開き直って本来の姿を取り戻す。

一気にテンションを上げる有明コロシアムの観客の声援を受けて、シェルトンが怒涛の4ゲーム連取でイーブンに戻し、タイブレークもその流れを手放さずにセットオールに。ファイナルセットも一進一退の好勝負が続いたが、第7ゲームでギロンのショットがサイドラインを割るアンフォーストエラーになってシェルトンがリード。陣営席では拍手もせず感情も露わにせずに見守っていたコーチであり父親でもあるブライアンさんが、終盤では立ち上がって熱い視線をコートに送っていた。ちなみにブライアンさんは松岡修造と旧知の仲とのことで、2回戦を前にしたセンターコートで松岡が声を掛けて談笑していた。

そのままリードを保って勝利をつかんだシェルトンは、静かに手を上げて勝利をかみしめるような様子だった。敗れたギロンがコートを去る際には、観客から一際大きい拍手が送られ、充実した熱戦へのねぎらいが伝えられていた。

第2試合は、カラツェフに望月慎太郎が挑む。悪くない立ち上がりを見せた望月だったが、第5ゲームで30-40とブレークポイントを与えたタイミングで雨が降り始めたことが響いた。コロシアムの屋根を閉める間の中断は立て直すチャンスでもあったのだが、再開直後にブレークを許してしまった。

序盤こそイージーなミスが目立ったカラツェフが、徐々に手堅さを取り戻す。ポイントを間違えたカラツェフが40-15でベンチに座ってしまったり、チェアアンパイアがミスでゲームカウント2-2とコールしながら、2-1のゲームポイントと訂正するなど若干ドタバタした部分はありながらも、カラツェフのテニスは徐々に安定感を増して行った。

望月は、フリッツ戦でもそうだったように序盤はサーブ&ボレーがあまり見られず、セカンドセットでは数を増やしたものの、ここまでの快進撃のような躍動感は感じられない。やはり慣れない連戦は、20歳という若い選手であっても体力をかなり消耗させていたのだろう。正直なところ、勝てるチャンスは十分にあったのだが、要所でサービスエースを決めて流れを渡さなかったカラツェフの経験が勝っていたということだ。

続いてのダブルス準決勝は、ジェイミー・マレー/マイケル・ヴィーナス組とラモンズ/ウィズロー組の対戦。この日の僕は出張先から昼過ぎに帰宅し、10分後に有明に向けて出発するという強行日程だったので、セカンドセット最初のチェンジオーバーで離脱してしまった。競った展開ではあったのだが、気になったシーンがあった。ピンボールのようなラリーの中で転倒したウィズローに、ジェイミーとヴィーナスが近寄って心配そうにしていたにも関わらず、立ち上がったウィズローはふたりに目もくれず、ラモンズとだけコミュニケーションを取っていた部分だ。

ここで、ウィズローの好感度が一気に下がってしまったのだが、その後も彼はボールを追って広告のボードを横一列きれいに倒してしまう場面もあり、印象の悪さだけが残ってしまった。ラモンズ/ウィズローのセットアップで離脱したのだが、その後に巻き返したマレー/ヴィーナスがマッチタイブレークで勝利。リンキーとパーセルの待つ決勝へ駒を進めている。

日曜日の決勝ではシェルトンのツアー初勝利とリンキー組の歓喜に期待して、最後の観戦を楽しむことにしよう。