【木下Gジャパンオープン】本戦Day-3

木下グループジャパンオープンの水曜日は、かなり盛りだくさんな内容だった。まずプラクティスコートに向かってみたが、かなりの人だかりながら人気選手はあまり姿を見られず。そんな中で目立っていたのが、練習から気迫満点のスタイルで存在感を発揮していた小田凱人だった。

少し離れたコートではジレとフリーゲンが練習していたが、そちらを見ていたのは2人ほどで、ダブルスの試合は盛り上がる今大会なのに、練習でのダブルスプレーヤーの扱いはやはりこんなものかという印象だった。

センターコートでフルカチュがいきなりブレークダウンした情報を見て、急いで観戦に向かう。ジャン・ジージェンのパワフルなフォアハンドに手を焼いていたフルカチュだったが、しつこくバック側を狙う戦術も奏功しはじめて逆転でファーストセットを奪う。マレー/ヴィーナスのダブルスが気になったので、ここで離脱してショーコートに移動してしまったので、この後にジャンが逆転勝ちを収めたのは意外だった。

ダブルス巧者のジェイミー・マレーとマイケル・ヴィーナスにラッキールーザーの柚木武と渡邉聖太が挑む試合は、マレー/ヴィーナスの楽勝とはならなかった。ダブルスはトップシード2組がウィズドローしてしまい、予選敗者の2組が繰り上がったので、結果的に予選を実施した意味がなくなっている。

柚木は豪快なサーブを何度もさく裂させる一方、フロントに出ても巧みなボレーでマレー/ヴィーナスを混乱させる。小柄な渡邉も一歩も引かないプレーで、セットオールに持ち込んだ時点では勢いで押し切ってしまいそうな予感すらあった。しかし、マッチタイブレークでは日本人ペアが勝ちを意識したのかプレーが不安定になり、そこをマレー/ヴィーナスに突かれてしまった。

ダブルス第2試合も白熱した展開。望月慎太郎と野口莉央がマックス・パーセルとリンキー・ヒジカタに相対した。序盤はリンキーのサービスゲームでなかなかポイントが取れない一方、シングルスのATP本戦初勝利を挙げた望月が肩の力を抜いてリラックスしたテニスで順調にポイントを積み重ねる。

望月とパーセルがフロントで対峙すると、微妙に体を動かして相手を牽制する応酬が面白かった。パーセルは上半身を振るだけではなく、時には膝をついてみるなど上下左右にフェイントをかけているような印象。望月のネットプレーも冴えていたので、実力者相手にどちらが勝ってもおかしくない内容だった。こちらもマッチタイブレークで勝負が決したが、やはりここまで来ると経験とダブルスの試合勘の差が出るのだろう。

そしてセンターコートに移動して、トミー・ポールとマッケンジーマクドナルドのシングルス2回戦。ふたりとも理詰めのテニスという感じで、相手を追い詰めてポイントを取るという地味ながら見応えのある展開になった。

しかし、それをぶち壊してしまったのが、悪名高いチェアアンパイアのカルロス・ベルナルデスさん。ラインパーソンのコールがない中で自らの判断で止めたプレーが、チャレンジシステムを検証して正しくない場面があり、いつもながらの独裁者ぶりが姿を見せ始めていた。

そんな中で、ポールのエンドライン際に飛んだショットに対してマッキーがチャレンジ。しかし、これがベルナルデスさんに伝わらずチャレンジが認められなかったことでマッキーがキレてしまい、散々食い下がった挙句にボールを有明コロシアムの場外まで打ち出してしまった。そこからは、会場に何となくモヤモヤした嫌な雰囲気が漂ってしまい、試合を純粋に楽しめる環境ではなくなった。勝ったトミー・ポールも、微妙な表情だった。プロスポーツである以上、勝敗以前に観客のことを意識する必要があると思うが、その意味でベルナルデスさんの独善的なマネジメントは非常に残念だ。

ただし、マッキーの正面側のコートエンドで観戦していた僕の目にも、マッキーがプレーを止めたようには見えていなかったので、チャレンジを認めない判断辞退に問題があったとは思えない。言いたいのは、その後のマッキーへの対処の仕方であり、ベルナルデスさんはミスも多く、その割に威張りくさっているスタイルなので、そこを改善して欲しいということだ。ちなみに、場外に打ち出されたボールは、係員を通じて戻ってきていたように見えた。

そして、僕にとってこの日のメインであるルードとギロンの対戦。ルードを応援したい反面、ギロンが西岡との1回戦でも絶好調という印象だったので、内容と結果の両方に興味があった。

そして予感は的中する。ファーストセットは完全にギロンのペース。フットワークが軽い上に重心の移動も素早く、適切なポジションに早く移行して強いショットを正確に叩き込む。こんなテニスをされてしまったら、なかなか勝機を見出せないはず。好調だった西岡が苦労したことも、良いプレーをしてもポイントが奪えないルードを見ていればよくわかる。

それでも、セカンドセットはルードが先にブレークするのだが、流れはまったく変わらない。ここからギロンがギアを上げ、ルードに打つ手がなくなってしまった。ギロンが2019年のミルマンのように、予選勝者が本戦ファイナリストになる可能性は低くなさそうだ。

ここまでの観戦でかなり疲れていたので、シェルトンとジョーダン・トンプソンの試合は最初の数ゲームで切り上げる予定にしていた。ところが、大熱戦となってファーストセットだけで1時間半にも及ぶ展開に。試合前に松岡修造が予言していたように、シェルトンはとにかく強いショットを打ち込むスタイル。ハマれば手がつけられないが、ミスも多いので「曲者」トンプソンにはチャンスもあった。

「その位置から抜いてくるか」という場面でのシェルトンのウィナーに興奮し、そのパワーの穴を突くトンプソンのテニスに感服する。トンプソンは自分のプレーがうまくいかなかったときに手振りを交えて独り言を言っていたが、その姿と相手をウザがらせるプレースタイルから、西岡と同じ系統の選手なのだと理解した。

結局ファーストセットをタイブレークでトンプソンが取ったところで離脱してしまったが、その後にシェルトンが逆転してくれたので、また今大会で見る機会があるかもしれないと思うとうれしい。ルードもズベレフもフルカチュも消えてしまったので、北米の選手が上位を独占しそうな気配もあるが、その意味ではデミノーとシュワルツマンの対戦に注目したい。