【映画】哀れなるものたち

原題の"Poor Things"は、いったい何を指しているのだろうか。僕がこの作品から投げかけられたテーマは「個とは何か」だった。自らの胎児の脳を移植されたことで生命を取り戻した女性が送るのは、果たして母の人生か子の人生か。宗教的な観点でいえば「生か死か」という問題でもあり、現代の複雑な社会においては相続や課税、婚姻などさまざまな影響をもたらす。本作でも、主人公ベラは移植前に投身自殺を図ったヴァイオレットなのだとすれば、夫との婚姻は継続されるのかということが問われている。

「個とは何か」という視点に戻ろう。個人的には「一定期間における遺伝子の外形、もしくは乗り物」と捉えている。遺伝子は意志があるように見える活動をするし、そう考えないと生殖や進化ということが説明できないからだ。

本作では性行為を扱うシーンが多く、男女ともにぼかすことなく性器を映し込んでいる上に、俳優陣も体を張った演技を見せる。これもまた、個と種の関係性を深掘りしているのではないだろうか。そう考えると、"Poor Things"とは遺伝子に操られているのに、主役であるような顔をして生きている生物全般なのかもしれない。

エマ・ストーンはこの作品で2度目のアカデミー賞主演女優賞を受賞しているが、胎児の脳を移植されたばかりの幼児のような動きから、迫力満点のベッドシーンがあり、そして終盤には本来の知的で緻密な要素を見せつける。難しい役どころではあるが、オスカーを狙うには格好の機会だったはずで、モチベーションも高かったことだろう。そうでなければ、とてもやっていられないような演出なのだから。