【木下Gジャパンオープン】本戦Day-4

望月慎太郎が覚醒した。2019年のウィンブルドン・ジュニアを制して周囲の期待を集めながら伸び悩んでいた逸材は、この大会の1回戦でエチェベリを破ってATPツアー初勝利を挙げていたが、ATPランキング10位でディフェンディング・チャンピオンのテイラー・フリッツにファーストセットをベーグルで落としてからの大逆転勝利を挙げた。

ファーストセットは明らかに緊張が見えた望月は、ていねいではあるが攻め手に掛ける単調なテニス。ところがセカンドセットに入ると、持ち味でもあるサーブ&ボレーを多用し始め、それでフリッツとの立場を対等に近いものにした。最初は拍手だけだった有明コロシアムの応援に「レッツゴー望月、レッツゴー!」が加わる。最初は「望月」と「慎ちゃん」が併存して揃わなかったが、徐々に「望月」に統合されて声援も一体感を増して行った。

サーブ&ボレーは面白いように決まり、ストローク戦からのダウン・ザ・ラインを絶妙のタイミングで繰り出す。フラット系の伸びのあるショットはフリッツ以上で、セカンドサーブではスピンを織り混ぜながら優位に立った。エースにはならないまでも、サーブでのポイントも増え、フリッツに明らかないらだちが見え始める。実は昨年のこの大会で優勝したフリッツだが、2回戦では予選上がりの守屋浩紀にフルセットに持ち込まれ、同じようにフラストレーションを見せる場面があったので、つけ入る隙はあると思っていた。

僕の気持ちとしても、最初は「1ゲームくらい取らせてあげたい」だったところ、「1ブレーク」、「1セット」に変化し、ついにマッチポイントを迎えたときには、かなり高揚していた。圧倒的なホームの観客の後押しを受けて、ひ弱で勝ち切れない望月の姿はそこにはなかった。最後もボレーがきれいに決まり、信じられないという表情の望月が勝利を確定させる。中継カメラのレンズに書き込んだ「ありがとう」は、観客の後押しへの感謝だったはずだ。

この日は、他にも見ごたえのある試合が目白押し。小田の楽勝だろうと、見ずに済ませようと思っていた車いすシングルスの準決勝では、鈴木康平がファーストセットを奪う予想外の展開に。僕がショーコートに入れたのはファイナルセット第3ゲーム後のチェンジオーバーだったが、この時点では小田に火が付き、鈴木のパワーは切れかけていた。

競技人口の少ない競技では、アップセットが起きやすい。小田がUSオープンでウデに敗れ、そのウデは今大会で真田にストレート負け。そして小田もピンチに陥った。これは、17歳の小田の活躍でプレイヤーたちに可能性を感じさせた結果だとも言えるだろう。その意味でも、小田が活躍することの意義は大きい。

小田が勝利を決めて、ラケットをギターに見立てたパフォーマンスを見届けると、センターコートに移動してポピリンとガリンの戦いへ。こちらはポピリンがタイブレークを制してファイナルセットに入ったところだった。

ふたりの意地がぶつかり合うような展開だったが、ポピリンが正確さを増す一方でガリンは足を痛めてメディカルタイムアウト。勢いを緩めなかったポピリンが勝ち切ったが、以前この大会で見たときの彼に比べ自信とパワーが格段に増している印象だった。

続いては、本日のメインでもあるシュワルツマンとデミノーの一戦。序盤は望月慎太郎のように、まったく歯が立たないシュワルツマン。復帰途上にある彼にとって、まだコンディションと試合勘が戻っていない感じを受けていたのだが、ベーグルでファーストセットを落としながらもセカンドセットでは巻き返す。彼らしいコートカバレージからのリターンが冴え始めてデミノーを追い込んだが、最後はデミノーが振り切って準々決勝に駒を進めた。

デイセッションの最後はセンターコートのダブルス、マクラクラン勉/西岡良仁とアレバロ/ロジェの一戦。勉と西岡のプレーも決して悪くはなかったが、やはりアレバロ/ロジェのプレー内容には及ばない。特にフロントに出たときのやわらかいプレーは目を引くものがあり、反射的に当てるだけではなく、しっかり狙ったコースに伸びるボールを打つ技術に驚かされた。

画像は、試合後に(おそらく)エルサルバドルの関係者に祝福されるアレバロ。ロジェとのコンビネーションは絶妙だった。ここのところ不調が続くマクラクランも、サーブは好調時に戻っている印象なので、ここからの復活を期待しよう。

今日は出張なので、結果だけ追う形になるが、車いすも含めて気になるカードが続く。望月とポピリンの準々決勝も注目だ。