【映画】ベルファスト

カトリックプロテスタントの間の抗争が続く北アイルランドベルファストを舞台に、9歳の少年バディの視点で市民の生活を描く作品は、監督と脚本を務めたケネス・ブラナーの自伝的な内容だ。信じる宗教の違いは、幼少期から染みついた価値観の根幹に影響を与えているから、相手がとても異質なものに見えてしまう。しかし、その違いが全体の中のどれほどのものなのかと考えれば、塩味かしょう油味かというくらいの違いにしかならないはずなのだ。それは宗教でも、民族や性別、年齢でも同じこと。ダイバーシティインクルージョンを課題に挙げる理由がここにある。

この時代にアイルランド人が、どのような経緯で政府の支援を受けてカナダやオーストラリアに移住する様子も描かれているが、アイルランド人は19世紀に「じゃがいも飢饉」の影響でも北米などに移住しているので、歴史的な文脈もそこにはあったはず。台詞の中に「アイルランド人は世界に出ていくから、パブが世界中にある」という表現もあり、アジアでいえば中国人と中華料理店に置き換えられそうな気がした。北アイルランドは英国の一部ではあるが、アイルランド民族としての一体性は間違いなく存在しそうだ。

僕にとってのサー・ケネス・ブラナーは、その昔に銀座テアトル西友で鑑賞した「から騒ぎ」の監督兼主演であり、「ハリー・ポッター」シリーズのギルデロイ・ロックハート。そして「マイティ・ソー」の監督でもある。それぞれの役柄や作品と重ね合わせてみると、「ベルファスト」に描かれている幼少期と何らかの関係がありそうな気もしてくる。盛り上がりのあるストーリーではないものの、自分の幼少期にも通じるあの時代の世界観が蘇り、凄惨な場面の裏側に力強く生きる市民に心が温まる思いがした。