【映画】アイ・ケイム・バイ

それなりに面白い映画ではあるものの、見終わっての充実感がまったくない作品だった。展開としては、とにかく主要人物があっさり死んでしまう。きっと重要なファクターを担っているのだろうと思ってみていると、すぐに殺されてしまって以降は触れられることもない。目先の展開を追ってゆくだけで、伏線が張られているわけでもなく、深みが決定的に不足しているのだ。これだけのキャストを使う予算があるのだから、監督次第で作品は大きく変わったのではないかと思うと残念だ。

主演はジョージ・マッケイという扱いで、確かに彼の演技は素晴らしかったのだが、作品として最も重要な役柄を演じていたのはヒュー・ボネヴィルだろう。「ダウントン・アビー」でのグランサム伯爵の印象が強いが、嫌な感じの元判事という色を絶妙に醸し出していた。「マーダー・イン・ザ・ファースト」の検事シレッティを演じたカリー・グレアムにも似た感じの演技だったが、悪役であることが一目瞭然でわかりやすい。

忍び込んだ犯罪現場にグラフィティを残すという設定だが、あれだけていねいな作品をわざわざ残すということが、早く逃亡したいというモチベーションが働くはずの侵入者に可能なものかと考えると、設定に無理があるようにしか思えない。「リーガル・ウォール」に描かれたミューラルのように法的に問題のない作品ならまだしも、公共物に描かれたグラフィティの質が低いように、アーティストにとっては「逃げる」ことが前提なのだ。このあたりのリアリティ感の不足も、深みが不足している一因だろう。