【映画】ミュンヘン 戦火燃ゆる前に

価値観というものは、非常に扱いにくいものだ。ナチスドイツが第2次世界大戦に向かうトリガーになったズデーテン地方の併合を巡るミュンヘン会談に焦点を当てたストーリーだが、ズデーテンはドイツ系住民が多いエリア。民族としての統合は、価値観が近く共感を得やすいということなのだろう。そしてナチスが持っていたカリスマティックな求心力も、第1次世界大戦で負けたドイツの価値観が戦争に、そして民族浄化の名の下にユダヤ人虐待につながった。

本作は、そんな価値観による同調圧力に屈しなかった2人の役人のストーリーなのだが、組織論として考えれば、理念を共有できなかった時点で失敗しているとも言えるだろう。英国にしてもドイツにしても、この時代に戦争に向かうには価値観の妄信が必要だったし、それは日本でも同じだったはず。そこに異議を唱えることがどれほど大変なことなのか、そして叶わなかったとしても人間として正しいことをする意義について、問いかけられているような気がした。

チェンバレン首相を含む英国陣営は、いかにも英国らしいクセのある演技と演出をしているのだが、一方でドイツ陣営の描き方は浅かった。特にヒトラーヒムラーといった主要人物のキャスティングが弱すぎて、こんなにカリスマ性のない指導者ではあれだけ狂信的な結合を生むことはないだろうという妙な納得感すら覚えたほどだ。いずれにしても終盤はサスペンス要素も満載で、作品としては十分に楽しめた。