【ドラマ】ザ・コミー・ルール

元FBI長官のジェームズ・コミーが書いた暴露本を映像化した本作の一番の見どころは、「ミスター・メルセデス」で刑事ビル・ホッジズを演じるブレンダン・グリーソントランプ大統領そっくりに怪演するところ。メイク技術もすごいのだが、表情や動作から漂う本物臭さが何ともいえず迫力を醸し出している。コミーを演じるジェフ・ダニエルズは「ニュースルーム」でおなじみだが、抑え目な演技でグリーソンとの比較が興味深い。

この作品は、かなり史実を忠実に描こうとしている印象で、前半は駆け足で歴史をなぞり、後半で一気に人間ドラマを展開する見せ方になっている。これはまるで、第1幕ではマイム中心に人間関係や場面を説明し、第2幕で踊りまくるバレエのような構成だと感じた。前後編という構成も、その類似性を強めているように思う。そして、WOWOWとしては、これを大統領選直前に持ってきたところに意気込みを感じさせてくれた。内容はまさに政治的な駆け引きであり、大統領選の裏側を垣間見せてくれ、直後に起こったバイデンの大逆転まで一連の流れとして見ることができた。

終盤で、コミー長官の妻と娘たちが、トランプ政権で女性の権利が失われることに失望しつつ、「イヴァンカが止めてくれるかもしれない」と淡い期待を寄せるあたりに米国市民の複雑な心境がうまく描写されていた。彼女たちにとっては、コミーがトランプ政権誕生の片棒を担いだように見えていたので、コミーに対する失望も合わさっていたのだが、それも政治ドラマの悲哀なのだ。政治は必要悪なのだと、あらためて感じさせられたドラマだった。