【東京物語】小津はフェルメールの視点

実はいままで、ちゃんと見たことがなかった小津作品。NHK-hiで放送された「東京物語」と「東京暮色」を続けて見てみました。原節子杉村春子はどちらの作品でも似たような演技でしたが、「東京暮色」では銀行支店長を演じた笠智衆が、その4年前の作品「東京物語」では寡黙な老人を好演しているところに、台詞以外の部分での表現力の多彩さに感激しました。

小津の作り上げる物語は、余分なシーンを排除するとともに、余韻を随所に残す展開が素晴らしいです。台詞でも役者の演技でもない部分までもに制作者の意図を感じる編集は、欧米映画でも感じたことがないほどのものです。ただ、会話のシーンで発言者を追うようなカメラ回しには、少し違和感を覚えました。

さて、小津安二郎の特徴はローアングルからの場面描写だといいます。この2作品にも、そのような低い視点から捕えた室内描写がふんだんに登場しますが、この視点がまさにオランダの画家・フェルメールのそれなのです。フェルメールの作品は一部から差し込む外光の下、室内での人物の一瞬の表情を切り取ります。小津は映画というメディアだけに「一瞬の」表情ではありませんが、登場人物が玄関から外出しようとして一瞬室内に戻りかけるようなシーンで、フェルメールの視点とのオーバーラップを感じました。

おそらくそれは、人物が意図しないながらも、前後の脈絡が一瞬の動きの中に凝縮された場面の同調性なのだと思いました。