【ハンマースホイ展】虚ろな静けさ

実は東京国立博物館の大琳派展を見に行ったのですが、平日のお昼だというのに入場制限がかかっていたのであきらめました。10分待ちとはいえ、そこまでして混雑する中で展示を見る気にはなれなかったので。団塊世代の定年到達で、平日昼間のビジネス・マーケティングは大きく様変わりしそうですね。

さて代わりに訪れたのは、国立西洋美術館で開催されている「ヴィルヘルム・ハンマースホイ展」です。彼はデンマークの画家で、構図の類似性から一部では「北欧のフェルメール」と呼ぶ向きもあるようです。時期的には世紀末にあたり、クリムトとほぼ同じ時代を生きています。フェルメールが描かれた人物の一瞬の表情を切り取っているのに対し、ハンマースホイの描く人物は背面からのものが多く、表情ではなく仕草や姿勢によって気だるさのような、諦念のようなどうしようもないせつなさが表されています。

また、ハンマースホイは部屋と扉を象徴的にモチーフにしています。ある部屋の扉が開け放たれた先に、別の部屋の閉ざされた扉が見えるものも多く、「この世界の向こうに隠された未来があるのに、そこに出て行こうとしない」ことの象徴なのかと想像しました。このあたりの構図は確かにフェルメールに似ているのですが、ハンマースホイのテーマの方が深遠に思え、本質的には大きな違いがあるという印象でした。

そして彼の描く風景画では、僕が訪れたことのない北欧を象徴するかのように、重く垂れ込めた空と空間のグレーが視覚を奪います。一瞬、彼は眼病を患っていて視野が暗かったのではとも思いましたが、細部が正確に描かれていることからそれはなかったのだと思い直しました。デンマークのみならずロンドンの風景まで、同じように暗い色彩で描かれており、ある意味統一感のある作風です。なぞらえるならば、エル・グレコの作品に見る「黒」でしょうか。あまり知られていない画家ながら、なかなか見応えのある展覧会でした。

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