【村上春樹】「騎士団長殺し」を読了

村上春樹の「騎士団長殺し」を読了したが、「第2巻終わり」と書いてあったということは「1Q84」や「ねじまき鳥クロニクル」のように、しばらくしてから第3巻が出るのだろう。

この作品で春樹が表現したことを一言でまとめれば「何が事実かではなく、自分がどう思うかが大切だ」ということ。正しいかどうかを決めるのは自分であって、そこに確信が持てることがすなわち幸福なのだということなのだと感じた。僕も昔、掌編小説を書いていたが、そのときは事実の裏付けを取ってから書くようなことはせず、その時に感じた自分の思いを優先させていた。それと同じことなのだと思う。

それを端的に示すエピソードが、本作の中で主人公に語らせている「(ビートルズの)フール・オン・ザ・ヒルはレノンの作品だと思う」という趣旨の発言だ。この曲はレノンではなくマッカートニーの作品なのだが、事実がどうかではなく、主人公(=著者)がどう感じたかにしか意味はないのだ。

本作の中では、ジョン・アーヴィングの「ガープの世界」で扱われたような生命の誕生が語られる。春樹はアーヴィングの他の作品を翻訳しているから、当然にこれを踏まえてのことだろう。子供のいない僕にとって、どこかに自分の遺伝子を受け継いだ生命があるという可能性を信じることは、極端なことを言えば来世を信じることと同じことだ。信じる者は救われると言うと宗教じみているが、本作はまさに宗教論でもあるように思う。特に、アニミズムに裏打ちされた「信仰」のストーリーなのではないだろうか。