【映画】アステロイド・シティ

ウェス・アンダーソンの世界は独特だ。自分だけのワールドを作り上げ、見る者を引きずり込む。本作の世界観もファンタジーのように非現実なものになっていて、最近どこかでこれと似た光景を見た感覚があったのだが、バービーランドであることに後から気づいた。

その独自性は、見方を変えると「作り物感」をあえて強めているということでもある。現実感を極限まで薄めることで、その世界の独自性が際立つことになる。キャストも、いかにも学芸会のような顔ぶれ。有名どころがチョイ役で登場するが、見る側にしてみれば、良くも悪くも俳優の過去作での演技がすべてそこに集約されてしまうことで、その世界観の解釈が見る側に委ねられることになる。

ブラック・ウィドウがいて初代ハルクがいてレイ・ドノバンがいる。そしてウィレム・デフォートム・ハンクスブライアン・クランストンも登場する。これはまさに豪華な顔ぶれだが、この「ごった煮」感が本作の特徴と言ってよい。

そしてもうひとつの特徴は、これが明示的にも暗示的にも「演劇空間」であるということ。「〇幕△場」というプロット割からしてそうだし、アステロイド・シティという街自体が大規模なセットという前提であって、つまりはこの世界が「舞台」であるということがベースになった作品なのだ。この非現実な空間は幕が下りれば消え、また現実の生活が戻ってくる。それまでのつかの間を、自分なりの非現実に浸ることが演劇の魅力であり、この作品によって製作陣が提供しようとした体験価値なのだろう。