【映画】ザ・メニュー

ホラーとコメディの要素を絶妙なバランスを織り込んではいるが、これは間違いなく演劇空間。そこだけにしかない価値観と合理性が作品全体を覆い、非現実性を十分に醸し出している。言い換えると、そこで起きたことのすべてを理屈で判断することはできず、説明もされないということ。それでありながら、何となく納得させられてしまうところが「演劇空間」なのであり、そんな空気を世界観として作り出しているところが秀逸な作品なのだ。

高めの価格帯を設定している飲食店にありがちな、提供者側の一方的な視点による料理や演出に対し、自らの考えをしっかりと表明するマーゴ。提供者側のスローヴィクも、無理に作り上げる傲慢なまでのロジックに自ら疲弊している。料理は愛情であり、わけのわからないコンセプトよりも、懐かしいチーズバーガーこそが本物なのだというメッセージは、あらゆるビジネスの本質を考える上で検証してみるべき論点なのだと感じた。余計な、不要なもののために、お互いが無駄に疲弊してはいないだろうかと。

役者陣も個性派揃い。「クイーンズ・ギャンビット」のアニャ・テイラー・ジョイはすっかり大人っぽくなり、妖艶な雰囲気さえ漂わせる女性を好演し、「ハリー・ポッター」シリーズのヴォルデモート役レイフ・ファインズは冷徹な悪役シェフの世界観を作り上げる。「ジェシカ・ジョーンズ」でのジェシカの母親役が印象的なジャネット・マクティアや「ハウス・オブ・カード」で副大統領ブライスを演じたリード・バーニーも、いかにもな役柄で存在感を示すが、僕としては何と言っても「レジデント」で傲慢な経営者ローガンを演じるロブ・ヤングが不安そうな表情でおびえているシーンが一番の見ものだ。

不思議な後味が漂う作品だが、見終わって損をした感情はまったく湧いてこないので、一見の価値はあると思う。