【映画】スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース

長編アニメ作品としてアカデミー賞を受賞した「スパイダーバース」の続編という位置づけだが、前作を見ずに視聴した。マーベルアニメはあまり見ていないが、スパイダーマンであれば実写はすべて見ているので、感覚的にキャッチアップできるだろうという思いだった。

まず圧倒されたのは、本作が持つスピード感。アニメでしか不可能なほどに必要な場面だけをつなぎ、無駄な要素はカットされる。テンポとリズムをもたらしている一方で、見る側は息もつけずに、ひたすら作品の流れに身を委ねるしかない。

本作はマルチバースをテーマにしつつ、人種や価値観の異なる多様性の中で社会をどう協調させればよいかを問い掛ける。それは、最近のマーベル作品に共通して見られる傾向だ。しかし、それを考えさせたいのであれば、見る側が作品のテンポに引っ張り回される作り方は、多様性を否定してしまうのではないだろうか。映画館での上映から自宅での配信視聴へと、映画産業が大きくシフトチェンジしている状況で、一定の時間を切れ目なく作品の世界観に浸らせることは作り手のエゴではないのか。

その意味で、本作は作り手のエゴが満載だ。実写を挿入した部分もその一部だが、アニメだからできることに徹底的にこだわり、視聴者が見たいものというマーケットインではなく、あくまでプロダクトアウトの視点で制作されている。

芸術とはそういうものだと言ってしまえばそれまでだが、エンタメは純粋にアートと呼ぶのも無理があるし、これだけの予算をかける以上はリターンも求められる。作り手の理屈だけで完結してよいはずはない。

ちなみに、最初の部分でスパイダーマンが捕捉される多面体のような物体が、オラファー・エリアソンインスタレーション作品に似ていたことに興味を持った。何らかのオマージュか、場合によってはパクりなのかもしれない。