【ドラマ】マーダー・イン・ザ・ワールドエンド

原題は「A Murder at the End of the World」なのに、邦題は「マーダー・イン・ザ・ワールドエンド」という和製英語とも言えない中途半端なものにしているところが、いかにも日本的だ。

物語は、アイスランドの隔離された環境のホテルに招待された12人が、密室空間で次々と起こる殺人事件に巻き込まれるというもの。アガサ・クリスティ的な構成だが、そもそも何の目的でこのメンバーを集めたかというロジックが弱く、ホストのアンディの描写も中途半端。小劇場の演劇のように、与えられた場の中で繰り広げられるのなら面白さも引き出されるだろうが、これを実写で撮ってしまうと物足りない。

IT技術の使い方にはこだわりも感じられ、とってつけたようなものではなかったものの、AIが事件にかかわる部分の設定も掘り下げ切れておらず、バズワードに乗っかってPVを稼ぐキュレーション・メディアのような段階で止まってしまったのはもったいなかった。

主人公のダービーはアマチュア探偵にして、作家としても活躍する一方、IT系の知識も豊富という「Z世代」をアイコン化したような存在。それを演じるエマ・コリンは「ザ・クラウン」で若き日のダイアナ妃の役をこなしていた姿が記憶に新しいが、プライベートではLGBTQの「Q」であるクィア、つまり性的な自認が男でも女性でもないということをカミングアウトしている。

本作では恋人とのベッドシーンもあるが、とてもさらりと淡泊にこなしているあたりに俳優本人の色が出ているように感じた。彼女の演技には独特の世界観があるので、それだけでも本作を見る意味はあるだろう。