【フィギュアスケート】世界選手権2024 男子FS/アイスダンスFD

SPでまさかの失敗を犯したアダム・シャオ・イム・ファが19位からのスタートで、まさかの第1グループでFSを迎える。しかし、そのアダムが渾身の演技。彼らしい気持ちのこもったマイムで静かに始まった演技が、徐々に熱気を帯びてくる。

ジャンプを次々と成功させてのステップ・シークエンスでバックフリップを見せたが、これは違反で2点の減点がついた。もちろん、納得ずくの演技だろうし、SPの失敗で優勝は望めなくなったことで、開き直って自分らしさの証を大会に刻みつけたかったはずだ。終わってみればFSは2位で、合計でも3位に食い込み、奇跡の表彰台となった。

宇野昌磨はいつものように淡々としたスタートだったが、最初のジャンプで転倒したことで、後にマリニンが残っていることを考えてモチベーションが切れてしまったような演技。その分、鍵山優真は優勝のチャンスが広がって攻める演技を見せたが、3Aの着氷で体が伸びてしまい痛恨の転倒。ただ、最終滑走のマリニンが4Aを含む圧倒的な演技を見せたので、誰も何も言えない結果になってしまった。

かつてのマリニンはジャンプだけという印象だったが、ショーに積極的に出演した効果もあって表現力が著しく向上した。今や「Quad God」ではなく、男子シングルの王者として君臨するだけの地位に上り詰めたと言えそうだ。

アイスダンスのFDでは、トップ4組がいずれも素晴らしい演技を見せてくれ、高いレベルでの争いとなった。フィアー/ギブソンは、色物ともいえるロッキーメドレーでボクシングをフィーチャーした内容ながら、動きを完璧に音に合わせることでオーディエンスを魅了する。

チョック/ベイツは彼らにしては地味な演技に見えたが、それはフィアー/ギブソンのエンタメを見た後だからこそなのかもしれない。それでも妖艶なマディソン・チョックをエヴァン・ベイツがうまく包み込んで高得点を出す。ギニャール/ファブリはこれ上回れず、最終滑走のギレス/ポワリエに運命が委ねられた。

ギレス/ポワリエは、まるで演劇を見ているかのように物語を感じさせる演技。プログラムの素晴らしさに、演技が肉付けをしていて、極上のパフォーマンスに仕上がっていた。個人的にはこちらの方に心を打たれたのだが、さすがにこれは採点競技。チョック/ベイツが逆転を許さず、星条旗を掲げることとなった。

アイスダンスは序列は変わりにくいと言われるだけに、この4組に食い込むのは至難の業ではあるが、カナダの2組は僅差だったので、次のオリンピックまでには変化が起きているかもしれない。