【世界フィギュア】アイスダンスRD/女子シングルFS

さいたまスーパーアリーナでの世界選手権は、僕にとって初めてのフィギュアスケート観戦となった。女子フリーも楽しみだったが、何と言ってもアイスダンスへの期待が大きく、「かなだい」やチョック/ベイツの生の演技を見ることを心待ちにしていた。

あまりに長丁場なので、無理をしないようにアイスダンスの第1グループ終了後の整氷の間に入場。33組中20組しかフリーに進めないという狭き門だが、全体的にレベルは高く、アイスダンスはジャンプや転倒がほぼないので、スタンドから見ていると芸術性がよく伝わってくる。最近のテレビや配信では速報スコアの表示がデフォルトになり、寄ったカメラの映像は細かいミスも情報として伝えてくれる。しかし、本来視聴者はジャッジをするわけではないのだから、純粋に演技を味わえばよい。そのことを、生観戦したことによって、あらためて気づかせてもらった。

「かなだい」こと村元哉中/髙橋大輔組は、気合の入りまくった演技。ツイズルでは回転数が合わなかったが、髙橋がカウントをし損なったということのようで、それだけ舞い上がってしまっていたということだろう。ただ、演技内容は無理せずまとめ、実力相当の順位をまずは確保した。個人的に印象に残ったのは、チェコの兄妹カップルのタシュラーズ。妹タシュレロバが爆走するイメージがあったのだが、二人の息が合ってきた感じで、うまくまとめて9位に入った。

そして迎えた最終グループはさすがにレベルが高く、この大会にピークを合わせてくるだけに仕上がりも上々だ。フィアー/ギブソンもギレス/ポワリエもよかったが、ギニャール/ファブリが88点を超えてトップに立ち、さらにチョック/ベイツが91.94という異次元の演技で上回った。今日のマディソン・チョックは、何かに取り憑かれたような感じではなく、この場を楽しみながら演技している印象で華やかさも増していた。

ここで僕は、ネコの世話をするためいったん帰宅し、再度さいたまスーパーアリーナに戻る。女子フリーは第1グループ5番滑走ミクティナの演技前に戻ることができた。中盤でよかったのは、ベルギーの若手ピンザローネとスイスのレポンド。ピンザローネはブノワ・リショーの難解で芸術性の高いプログラムを見事にこなし、レポンドは細い体ながらダイナミックな演技で魅了した。

米国のアンバー・グレンとブレイディ・テネルが苦しい演技を見せる一方で、ドイツの大御所ニコル・ショットは円熟味のある渾身の演技。終わった瞬間に泣き崩れたように見えたが、それだけ気持ちが入っていたのだろう。クイーンの「ボヘミアン・ラプソディー」をアレンジした楽曲に乗せた素晴らしい演技はノーミスで終わり、結果も7位と存在感を示した。ちなみにショットは、表彰式の時間に通路に出てファンと交流していた。

最終グループではルナ・ヘンドリックスとイザボー・レビトが悔いの残る演技。三原舞依は3Lzで転倒しそうになって堪えたものの3Tがつけられずリピートになり、続く3Loも抜けて2Loになってしまったことで得点を伸ばせず5位に終わった。三原のジャンプは助走の軌道が短く、これが彼女の演技を安定させているのだと感じた。

イ・ヘインが素晴らしい演技を見せて暫定トップに立ってプレッシャーがかかる中、坂本花織は堂々の演技。3Fが抜けて1Fになりながら無理やり3Tをつけたところに意地が感じられたし、見ていてものすごい迫力だった。3Tは基礎点が4.2で1.1倍では4.62。坂本とヘインの差が3.67なので、この3Tがつけられなかったら負けていたことになる。際どい差ではあるが、それだけ価値のある演技だったということだ。

さいたまスーパーアリーナは空調が効いていて、ジップアップスウェットで寒さをまったく感じなかった。オーディエンスは闇雲にスタンディングオベーションをしているわけではなく、しっかり見極めている目の肥えた印象があった。リンクの状態もよさそうで、演技する選手にとってはこの上ない環境だったことだろう。