【映画】マエストロ

バイセクシャルであり、ユダヤ系であり、感情の起伏の激しさもあるという生き難いパーソナリティを持ちながら、レナード・バーンスタインが奔放に生活していた様子を描く作品。物語は、彼と妻であるフェリシアの関係に沿って描かれるが、奔放な夫を何とか受け容れようとする妻の様子が意地らしくもあり現実的でもあり、そして結果的には家族に喪失をもたらす過程も描かれる。

とにかく驚かされたのが、ブラッドリー・クーパーの役作り。エンディングでバーンスタイン本人がオーケストラを指揮する映像が流れるが、比較してみると指揮法から表情、棒を振りながら歌っている様子までが本当に似ていることがわかる。バーンスタインの感情表現が豊かであることは事実だが、その点も含めてブラッドリーが演技を楽しんでいることが伝わってくる映像だった。特殊メイクについては、カズ・ヒロがアカデミー賞にノミネートされるほどに評価されているが、一方でユダヤ系の鼻を揶揄していると物議を醸しているようだ。

指揮法の基礎としては、拍の頭を合わせるために打点を明確にすることが求められるのだが、プロの指揮者の多くは感情表現を優先する。バーンスタインもまたしかりだが、それを補って余りあるボディアクションと豊かな表情で奏者たちを導いている。

モノクロの映像がカラーになり、アスペクト比が4:3から16:9に移行する時代の流れをも反映しながら進む物語にも、何とも言えない味わいがある。

個人的には、エンドロールの2曲目に「キャンディード序曲」が来ることを期待していたのだが、その通りになってくれたので満足感があった。なぜ序曲をエンディングに持ってくるのかという感じ方もあるとは思うが、実はこの曲はオーケストラの演奏会ではアンコール曲の定番。5分弱という長さもちょうどよいし、2+2+3拍子という変則ながら、それを感じさせない構成が印象に残る名曲で、僕としては輸入盤のスコアも持っているくらいお気に入りの曲でもあるのだ。