【映画】すずめの戸締まり

ファンタジー要素を前面に押し出すのは、新海誠の定石。これまでの作品ではファンタジーの中に描かれるリアルな日常が印象的だったが、今作はその点では物足りなさを感じた。扱っているのが災害で、東日本大震災を思わせる描写もあっただけに、あまりリアルに寄せることがためらわれたのかもしれない。その意味では、能登地震直後にWOWOWで放送したことも、放送局としては難しい判断だったことだろう。

自己を犠牲にしても与えられたミッションを果たすことで、社会というか周囲の人たちに貢献しようとする意志は素晴らしい。ただ、一方で医療ドラマにありがちな「死を受け入れている人を何が何でも治療しようとする」医師に通じるエゴイズムも感じずにはいられない。宗像草太にとって要石になることがどんな意味を持つのか、それを完全には理解し得ない状況で鈴芽がした行動は果たして「正しい」のだろうか。

新海作品に登場するキャラクターは、もともとビジュアルに独特のクセがあって、一般受けする雰囲気ではなかった。しかし、「君の名は。」以降のメジャー作品では徐々にその色が薄れていった。本作では、どちらかといえば男性キャラクターにその傾向は残っているものの、鈴芽を含む女性キャラクターには残滓も感じられないところに興行収入と商品化という要素を感じる。プロジェクトを進める上で避けては通れないので、致し方ないところではあるのだが…