【ドラマ】赤い大地と失われた花

原題の「The Lost Flowers of Alice Hart」には「赤」の要素は含まれていないが、原作小説の邦題に従っているようだ。確かに映像としては、オーストラリア内陸部の赤い岩盤の国立公園が印象的なので、あながちミスリードなタイトルではない。オーストラリアの大自然の中で、男性による家庭内暴力から逃れた女性たちが暮らす花の農園が舞台となり、その主であるジューンの生き様が描かれる。

正直なところ、映像の上での主人公として扱われる孫娘アリスの立場で考えれば、「結局、あなたが活きるところはここしかない」という身もふたもないエンディングになっていることが、何とももどかしい。家系とか血筋というものに縛られざるを得ないような描き方には、個人的にどうしても拒否反応を持ってしまう。自分が自分らしくいるためには相応しい場所があるのだから、そこを否定しなくてもよいという考え方は理解できる。ただ、それが、かつて自分がいた場所で、一択だと言われると受け容れがたいのだ。

この物語はアリス個人ではなく、もっと大きな視点で虐げられる女性たちへの救済を伝えようとしているのだろう。それにはまったく異論はないのだが、アリスというミクロの視点に立ってしまうと、弟の存在というポイントを除けば救いがないことに、製作陣は気づいていたのだろうか。

農園主ジューンを演じるシガニー・ウィーバーは、恐ろしいほどに迫真の演技を見せてくれる。病に冒され、死が迫る状況でのジューンは、メイクや特殊効果だけでは語れない奥深さがあって、このような状況にある老人がどんな思いを抱いているのか、あるいは単に死という安らぎを求めているのか、そんなことに見る者の思いが向くほどにメッセージを感じた。彼女の演技が詰まった終盤は、こちらも息を飲んで見守るしかない雰囲気だった。