【映画】ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス

マルチバースというキーワードでMCU作品を作るのは、好きではない。都合のいいように展開して、すっきりしないまま終わってしまうからだ。絶対的な善や正義というものは存在せず、ある価値観の正義は異なる価値観においては悪になってしまう。それは、MCUの根底に流れる考え方で、サノスの思想にも一理あると感じている人は僕の周りにも少なくない。その相対性のバランスが異なる宇宙が存在し、その結果としてそれぞれに結果としての状況が異なるという視点はダイバーシティインクルージョンの根本に通じるので、その点は否定しない。

ドクター・ストレンジの英国~中国的な世界観に加えて、ワンダの要素が入ってくることを期待していたのだが、アメリカ・チャベスの登場によってヒスパニックが強まってしまった。ここでいう「アメリカ」とは、合衆国のことではなく「南北アメリカ大陸」の意味だろう。外資系企業のエリア戦略では、南北アメリカを総称して「Americas」を使うことが多いが、この新しいヒーローもおそらくその意味のアメリカなのだと思う。民族多様性を意識するのはよいが、最近のMCUはさすがにやり過ぎで、ミズ・マーベル同様にアイデンティティが伝わらないまま物語が進行してしまっている。

また、ロンドンが拠点のひとつということもあってキャプテン・カーターが登場するのはまだよいとして、マリア・ランボーキャプテン・マーベルやブラックボルトには無理がある。他作品に誘導しようとするマーベルの商魂が見え見えで、ちょっと残念だ。本来の世界観を逸脱してしまうと、そもそものコアな顧客基盤を失ってしまう。そのインパクトを甘く見ると、おそらく痛い目を見ることになるはずだ。