【洋書】Peter 2.0

丸善に平積みされていた「NEO HUMAN」に興味を持って手に取ったものの、横にあったその原著「Peter 2,0」の方を買ってみた。医学用語やIT用語はやや多めだが、英語としてさほど難解ではないので読みやすい。310ページを、結果的に2週間で読了することができた。

本作は著者のピーター・スコット=モーガンが運動神経障害を患って呼吸中枢も含む神経が徐々に麻痺してゆき、体に機器を接続してAIとして生きながらえることを選択する物語。そして同時に、同性のパートナーであるフランシスとの愛のストーリーでもある。ピーターは博士号を持っているから「ロボット科学者」は正しいのだが、仕事としてはアーサーDリトルでコンサルティングに従事していたので、白衣を着て研究に没頭する科学者のイメージとはかなり異なるだろう。

話は彼の半生を振り返りつつ、現在に至る「伏線」のようなものと合わせて語られる。過去にゲイであることで虐げられたことやフランシスとの出会いなどが描かれ、現在のタイムラインでは症状が進行することに対する恐れや決意が、本人の言葉だけにリアルに伝わってくる。何よりも彼の苦悩は、読者に対しても新たな命題として投げかけられていることがとても興味深い。AI化に成功したとして生物的な死は何を意味するのか、AIとしての生命は果たして「本人の人生」なのか。そんなSFのようなテーマに、ピーターは現実問題として直面しているのだ。

彼は自分のテーマ、そして本作のテーマを「ルールを破れ」、つまり「既存の価値観を捨てろ」としているように受け取った。それはゲイとして英国で最初に法律で認められた結婚を果たした者であり、AIに生命を委ねた者としての成果だろう。ただ、それらの苦悩を覆い隠しているのはフランシスとの愛情であり、それこそが一番彼が伝えたかったことなのだと思う。フランシスへの愛に満ちたエンディングには、狂おしいまでの情熱を感じるほどだ。あらためて自分の老後や生命について見つめ直してみたくなる、そんな作品だった。