【映画】ザ・プロム

Netflixオリジナルの本作は、LGBTQという繊細な問題にベタに切り込んだ内容だが、ミュージカル仕立てにすることでストレートな主張を中和している。これこそはミュージカルの効用で、ストレートプレイの台詞では気恥ずかしくてわざとらしいものでも、軽快なメロディに乗せれば抵抗なく見る者の心に届けられるのだ。この選択やキャスティングにおいても、ライアン・マーフィーならではのアイデアが詰まっているといえるだろう。

主演のメリル・ストリープは「マダム・フローレンス」での音痴なソプラノ歌手と比べると、その歌唱力が際立つ。自分本位の嫌味な有名歌手という設定を、巧みな表情と歌唱で見事に演じている。ジェームズ・コーデンも、グラミー賞授賞式のMCのように押しつけがましくないユーモアにあふれ、ゲイの役を自然にこなしていた。そして、何より印象的だったのはケリー・ワシントン。「スキャンダル」のオリヴィア・ポープとはうって変わって、頭の堅い地方の母親という設定を違和感なく演じ、エンドロールではコミカルで彼女らしくない雰囲気まで感じさせてくれた。

ミュージカル映画として楽曲が目立たなかったのは残念だが、全体的な印象としては素晴らしさだけが残った。132分がよどみなく、あっという間に過ぎてゆく。インディアナの田舎ぶりをブランドショップや量販店、「テーブルセッティングのあるレストラン」などで表現しており、モール全盛の米国における地方の独自性を考えるネタにもなる。なかなか体感できない米国内の位置づけを知ることができて面白い。